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大阪地方裁判所 昭和39年(行ウ)118号 判決 1973年3月27日

原告 藤井忠男 外二名

被告 大阪営林局長

主文

被告が昭和三九年五月九日付をもつてなした原告藤井忠男に対する減給ならびに同高山武房、同河村睦幸に対する戒告の各懲戒処分を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

主文第一、二項同旨

二  被告

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

(請求原因)

一  原告らは、いずれも大阪営林局西条営林署に勤務し、原告藤井忠男、同高山武房はそれぞれ農林技官、同河村睦幸は農林事務官であつたところ、原告らの任命権者である被告は昭和三九年五月九日付をもつて原告藤井に対して一カ月間俸給の月額の二〇分の一を減給する旨の懲戒処分を、原告高山、同河村に対してそれぞれ戒告に付する旨の懲戒処分(以下本件処分と略称する)をした。

二  本件処分の理由は、原告らが全林野労働組合大阪地方本部西条営林署分会(以下西条分会という)の執行部役員として昭和三九年三月一五日から同年四月一一日までの間西条営林署において同営林署に勤務する分会所属組合員が、同営林署長の発した宿直および日直の命令を拒否し、宿日直勤務に服さないとのいわゆる宿日直勤務命令拒否闘争(以下本件闘争という)を企画し、組合員をして宿日直勤務を拒否させて右計画を実施させたものであり、また、原告藤井は昭和三九年三月一五日、同河村は同年三月二九日の各宿直勤務を自ら拒否したものであつて、原告らの右所為は公共企業体等労働関係法(以下公労法という)第一七条第一項、国家公務員法(以下国公法という)第九六条第一項、第九八条第一項に各違反し、国公法第八二条各号に該当するのでそれぞれ前記のとおり懲戒処分をしたというのである。

三  しかしながら、本件処分は次の理由により違法のものである。

1 処分事由の誤認

(一) 西条営林署に勤務する西条分会所属組合員が昭和三九年三月一五日から同年四月一一日までの間の宿日直の一部につき勤務を拒否する闘争を展開したが、右闘争は西条分会執行部役員であつた原告らが企画立案したものではなく、西条分会署内班職場集会において組合員全員一致の意見で、本来宿日直勤務命令により強制されるべき性質を有しない宿日直勤務を、組合員個々の自由な意思でこれに従事しないことを申し合わせそのように実行したにすぎないのである。したがつて本件処分は事実の認定を誤つた違法のものである。

以下、本件闘争の背景となつた営林署の宿日直の実態および本件闘争のいきさつ等について詳述する。

(1) 国有林野事業における宿日直の実態

戦前および戦後の一時期における営林署における休日および夜間における火気その他の取締りは営林署構内あるいは隣接の官舎に居住する署長がその責にあたり、一般職員による宿日直はこれを必要とする事情がなかつた。しかし、昭和二一年ごろから営林署が保管していた放出軍需物資の盗難予防を主たる目的として職員が夜警のため営林署構内に宿泊したり、休日に出勤したりする態勢をとる営林署が出てきた。大阪営林局もかかる情況に対処するため昭和二三年管内の各営林署長に対してその理由を上申し許可を受けたうえ宿日直制度を設置できる旨通知した。そしてこのころから、宿日直は主として盗難事故防止の目的で労働基準法(以下労基法という)上の手続がとられないまま職員の合意を前提に勤務時間外のサービス労働として実施され、その手当については労基法第三七条による時間外労働によるものとして処理された。しかし、戦後の混乱期が過ぎ世情が安定するにしたがい盗難予防を目的とした宿日直はほとんどその必要がなくなつたのでこれを廃止する営林署が続出し、昭和二七年ごろまでにほとんどの営林署が宿日直を廃止した。ところが、昭和二八年ごろから昭和二九年ごろにかけて宿日直を廃止した営林署もこれを復活するようになり、また、従来、宿日直制度を採用しなかつた営林署もこの時期にこぞつて採用し、以後宿日直は昭和四〇年四月一日専任制に移行するまでの間、職員による輪番制という勤務形態で実施されてきた。このように宿日直が全面的に実施されるようになつたのは昭和二八年一月二九日人事院規則九―一五でこれまで低額に据置かれてきた宿日直手当を定額三六〇円に一挙に引き上げ林野庁もこれにならつたことによるものである。すなわち、当時における営林署職員は低賃金に喘ぎ、それに旅費や超過勤務手当も満足に支給されない状況であつたため、職員は遅滞なく、しかも確実に支給される宿日直手当に魅力を覚え、宿日直に反対するよりも、むしろ、これを歓迎する傾向が強く、全林野労働組合(以下全林野という)もかかる職員の意向に副つて宿日直に反対せず運動を進めてきたことによるものである。もとより、右宿日直はあくまで賃金補填の趣旨で実施されたものにすぎず、宿日直が職員の同意なしに義務として強制されるべき性質のものでなかつたことについてはなんら変りがない。

(2) 西条営林署における宿日直の実態

西条営林署の宿日直は昭和二三年に盗難予防を主目的に開始され、昭和二六年に一旦廃止された後昭和二八年に再度復活実施されることになつたものであるが。復活した理由は前項で述べたように職員が宿日直手当の支給を希望したことによるものであつて、とくに、同営林署で宿日直しなければならない必要があつたことによるものではない(当時の庁舎の西側には庁舎に近接して署長官舎があり、また、庁舎の南側には別棟の宿直室、独身寮があつて構内には他にも官舎が存在したので宿日直をしなくともなんら支障がなかつた)。また、宿日直の方法も他の営林署と同様、職員による輪番制とされ、一定の順序によつて決められた勤務割当表によることとされたが、宿日直を輪番制とした狙いは職員に宿日直の機会を平等に与えて宿日直手当の支給による賃金の補填に不公平がないようにするためで、決して宿日直勤務につき職員間に負担の公平を図る趣旨ではなかつた。したがつて、もともと宿日直手当の支給を希望しない者、換言すれば、宿日直を希望しない者は宿日直勤務の割当がなされた場合でもまつたく宿日直に従事しなかつたのに対し、より多額の宿日直手当の支給を希望する者は自己の割当以上に他人の割当分まで勤務に従事していた。そして、その方法はもつぱら交替によつて行われたがその方法として(1)職員相互の話合による自由な交替による場合と、(2)割当勤務者があらかじめ管理者に交替を申出て管理者が他の職員に宿日直を依頼する方法がとられた。そして、(1)の方法による場合でも事前に交替理由を申述べて管理者の承諾を得るようなことはなかつたし、(2)の方法による場合でも交替を申出て許されなかつたことはなく、また、職員に管理者が交替を求める場合も、職員の承諾なしに一方的に勤務を命令することはなかつた。そして交替する職員を求めることができない場合は管理者が自ら宿日直をしていたし、さらに、本来、勤務につくことのできない定員外職員も、ときには定員内職員の名義を使用して勤務に従事していた。かくて、西条営林署における宿日直勤務の回数は年間、多い者は実に九一回、少ない者は土曜日の日直一回という甚しい事例さえみられ、とくに右勤務は構内の寮に居住する独身職員に集中する傾向があつた。それに、宿日直の勤務命令簿に押捺されるべき管理者の命令印は本来ならば命令伝達前に押捺されるべきものであつたが、同営林署における宿日直の命令印はすべて事後に押捺されていた。

以上の次第で、西条営林署における宿日直も他の営林署における宿日直と同様職員の同意を前提として実施されていたものであつて、職務上の指示命令に対する義務の履行として実施されていたものではない。

(3) 本件闘争のいきさつと内容

輪番制を建前として発足した宿日直も一〇年余にわたつて宿日直手当が据置かれ、もはや食費すら賄えず、くわえて、職員一般の権利意識が昂揚するにつれて宿日直の希望者は激減し、昭和三七年ごろから宿日直をする義務はないとしてその廃止を要望する日常活動が各地の営林署で発生し、とくに、大阪営林局管内の姫路営林署では昭和三七年六月九日から同年一二月までの間宿日直を全面的に拒否する事態が発生した。その間全林野労働組合大阪地方本部(以下、大阪地本という)は同年八月の定期大会で姫路分会の右行動を支援し、宿日直問題に対する討議を深めたが、これに対し、当局側は当時宿日直を一方的に命令する法的根拠はないとの見解をとつていたところ、同年一一月二七日からこれを変更して就業規則により一方的に命令できるとの見解をとるようになり、しかも、右命令に服さない者に対しては懲戒処分をもつて臨むという態度に変つた。そこで、大阪地本は同年一二月九日には宿日直は本務外のサービス労働で、これを強制する法的根拠はなく、右勤務が各個人の意に反する場合は勤務に従事しないよう、そして、宿日直勤務の諸条件改善のため各職場で日常的な活動を進めるように管内の各営林署分会を指導した。各営林署分会も姫路分会の闘争を契機として当局側と交渉を進め、その結果昭和三七年末ごろまでの間に姫路分会を始めとして新見、山口、山崎等の各営林署分会では当局との間に宿日直は義務付けられたものではないとの確認が取り交わされた。

かような各分会の活動に呼応し全林野も昭和三八年二月宿日直は義務ではないとの見解を明らかにしてその廃止を志向した闘争方針を樹立し、昭和三八年春季闘争(以下春闘という)では全国的に宿日直を拒否することを指令した。そして、昭和三八年七月の第一三回定期大会では宿日直問題について「サービス労働はしない」という職場組合員の権利意識を基盤として闘争を進めることを確認するとともに、その方法については拒否行動を画一的に進めるという方法ではなく日常の職場活動のなかで組合員の意識の昂揚を図り、それを背景とした団体交渉によつて宿日直制度の廃止を達成して行くという方針が決定され、右決定にしたがつて全国的な活動が強化推進された。したがつて、事態はもはや宿日直手当の増額など宿日直勤務の諸条件の改善では解決不可能で宿日直の廃止を目途として進展して行つた。

西条分会でも姫路分会の闘いを教訓とし、かつ、全林野や大阪地本の指導のもとに昭和三八年春闘を契機として宿日直をしない運動が定着し、同年末から昭和三九年初めにかけての職場要求をめぐる団体交渉の中でも宿日直問題は絶えず取上げられその廃止を目的とした運動が続けられた。昭和三九年春闘はかようなすう勢の中で全林野および大阪地本の指導のもとに進められた。西条分会闘争委員会は昭和三九年二月二三日全林野が採択した昭和三九年春闘方針を討議した際あわせて前記宿日直問題についてこれを同分会の春闘方針に取り入れるか論議した。しかし、宿日直問題は分会所属組合員各個人の日常活動に関する問題であるとして分会の春闘方針に採用されず、職場大会の討議に付されることとなつた。職場大会は昭和三九年三月四日と九日の二回にわたつて開かれ宿日直問題について討議した結果、各組合員は事情の許す限り希望しない宿日直はしないようにすることを申し合わせ、さらに、同年三月一七、一九日の職場大会において討議を重ねた結果、全員一致で、(1)希望しない宿日直は原則としてしない、(2)業務命令に対しても自己の意思で返上できる者は返上する、(3)返上しない場合でも闘争委員とともに抵抗を試みる、との三項目が確認され、以後、四月一一日までの間、右確認にもとづいて組合員全員に宿日直割当が一巡するまで希望しない宿日直はしないこととした。したがつて、宿日直勤務に就くか否かは組合員各個人の自由な意思に任かせられていたのであり、闘争期間とされていた昭和三九年三月一五日から同年四月一一日までの間でも勤務割当どおり宿日直に従事した者もあれば勤務に就けない理由を申し出て管理者によつて交替の措置がとられた者もあつて、宿日直を拒否した延回数は宿直一〇回、日直四回合計一四回にすぎず、しかも、その中には当局によつて交替処理がなされたものとして勤務に従事しなかつた者(津川武雄、仏崎信行)もいるのである。

(二) 以上の次第で、本件闘争は昭和三九年春闘期間中に実施されたけれども、被告主張のように右春闘の体制作りを目的として展開されたものではなく、本来、宿日直は本務外のサービス労働で義務として強制されるべき性質のものではないとの見解のもとに職員の権利を確保、伸長することを主眼に、宿日直制度の廃止、改善を志向して実施されたものであり、しかも、右闘争は西条分会執行部役員である原告らが企画し、実施せしめたものではなく、職場集会における組合員の自由な意思にもとづいて日常活動として展開することとされたものであつて、宿日直勤務に従事するか否かはまつたく組合員個人の自由な意思に委ねられていたものである。

したがつて、本件闘争は原告ら分会執行部役員が企画し、組合員をして実行せしめたものではないから、本件処分事由は事実を誤認した違法のものである。

また、原告らは同年三月一六日分会組合員である向台忠行の宿直拒否をそそのかし、かつ、同人に対する当局の説得行為を妨害し、また、原告河村は同年三月二〇日分会組合員である中内正治の宿直に関する当局の説得行為を妨害したものであるとされているが、そのようなことはない。たしかに、向台の宿直に関し、原告らが二木庶務課長ら管理者と応酬した際、原告高山が向台に対し「帰ろう」を声を掛けたが、向台は当時すでに宿直に従事しない意思を明確に表明していたのであるから原告高山の所為は同僚として当然の行為である。したがつて、かかる原告高山の行為を非難した管理者に対し、その場に居合わせた原告藤井ら執行部役員が抗議するのは当然である。それに、当時は宿日直をしない運動が実施されていた最中であるから、原告らの所為はむしろ義務ともいえ、これをもつて向台に対し宿直拒否をそそのかし、かつ、当局の説得行為を妨害したものというべきではない。かりに、原告らの所為が向台の意思決定に影響を与えたとしても、それはなんら威迫に類するものではないから、そそのかし等の行為に該当しない。また、原告河村が中内正治の宿直に関し、二木庶務課長に対し「本人が病気であるといつているのに、診断書を出せというのはひどいではないか」と抗議したのも、病気の場合、診断書を提出することは就業規則等でなんら要求されていないのに、二木庶務課長は中内に対し執ように診断書の提出を求めているので、同僚としてやむにやまれない気持から抗議したものであつて、原告河村の右所為は同僚として、かつまた、執行部役員として当然の行為で、なんら妨害行為に属するものではない。

2 原告らには宿日直義務はないから、本件拒否闘争を理由に懲戒されるいわれはない。使用者が労働者に宿日直を命じうる権限があるか否か、換言すれば労働者が宿日直義務を負うか否かは、労使の合意すなわち労働契約の内容によつて決まるものである。したがつて、使用者の宿日直命令(業務命令)は、右契約の範囲内で有効に発しうるもので、労働契約は法令、労働協約。就業規則によつて規律されるから、右命令もまた法令、労働協約、就業規則所定の範囲内で有効に発しうるものというべきである。しかるに、国有林野事業における宿日直勤務は以下述べるとおり、その法的根拠を欠くものである。

(一) まず、被告は、大正一一年閣令第六号を根拠に、国家公務員は事務の状況により必要あるときは執務時間外と雖も執務すべき職務上の義務を負つているというが、公務員と雖も無定量義務を負ういわれはなく、少くとも労基法の全面的適用をうける国有林野事業の職員に対し、かかる観念を容れる余地のないことは明らかである。また、被告の援用する給与支払準則なども、宿日直手当支給という国庫金の支出行為のために制定されたものであつて、宿日直勤務命令それ自体を根拠づけるものでもなければまして、労働者に宿日直勤務を義務づけるものではない。

(二) 国有林野事業の職員に対しては労基法が適用され、これら職員の勤務時間、休日は労基法第三二条、第三五条により勤務時間は一日八時間、休日は毎週少くとも一回とされている。しかし、国有林野事業の職員が実施してきた宿日宿は各職員が通常の本務以外になんら協定もなしに宿日直勤務に従事するものである。したがつて、それは右労基法第三五条、第三二条の規定に反するものである。被告は労働基準法施行規則(以下労基則という)第二三条の所轄労働基準監督署長の許可を受けることにより、労基法第四一条第三号に基づき本務外の宿日直を命じ得ると主張するが、労基法第四一条第三号に規定する「監視又は断続的労働に従事する者」とは右監視または断続的労働を本来の業務とする者に限つて適用される規定で、本来の業務の外に宿日直に従事する者に適用されるべき規定ではない。それに、労基法第四一条第三号の規定はとうてい労基則第二三条の根拠規定となりえないから、労基則第二三条は結局労基法上の根拠規定を欠くものであつて、労働条件に関する基準は法律で定めるとする憲法第二七条第二項に違反するものである。すなわち、

(イ) 労基則第三四条は、「法第四一条第三号の規定による許可は従事する労働の態様及び員数について様式第一四号によつて所轄労働基準監督署長よりこれを受けなければならない」として明文をもつて労基法第四一条第三号を根拠規定としているのに対し、労基則第二三条は労基則第三四条のように労基法上の根拠規定を明示していない。それに、労基則第二三条は規則全体のなかでの法文の位置からみてもまた形式的にも労基法第四一条第三号の規定とは関係のないものである。

(ロ) 労基法第四一条第三号は所轄労働基準監督署長の許可があつたときは労基法第四章、第七章で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用を除外する旨規定しているのに対し、労基則第二三条は労基法第三二条の労働時間に関する規定のみを適用しない旨規定しているにすぎず、休憩および休日に関する規定の適用を除外していないから、労基則第二三条と、労基法第四一条第三号の規定は整合しない。もつとも、労基則第二三条による所轄労基署長の許可を受けたときは労働時間はもとより、休憩および休日に関する規定も適用されないとの見解(昭和二三年一月一三日基発三三号)があるが、それは労基則第二三条が明文で適用を除外していない規定まで解釈により適用を除外する点で解釈の域を逸脱している。

(ハ) 労基法第四一条第三号に規定されている「断続的労働に従事する者」とは休憩時間は少いが手待時間の多い者で、その勤務は常態として断続的労働に従事する者を指称するとされているが、断続的労働と通常の労働とが反履されるような場合は常態として断続的労働に従事する者とはいえないから労基法第四一条第三号による許可の対象とならないとされている(昭和二八年二月一三日基収六三一一号)。右のとおりとすれば、本来の勤務と断続的労働との反覆であるといえる宿日直についても労基法第四一条第三号の断続的労働に該当しないというべきであるのに、労基則第二三条はかかる宿日直を断続的労働として取扱う点で労基法第四一条第三号の規定と労基則第二三条の規定は不整合である。

(ニ) 労基則第二三条は深夜業に関する規定を除外していないから、深夜にわたる宿日直は労基法上の深夜業務として割増賃金が支払われるべきであるのに、その支払義務はないとされている(昭和二三年三月一七日基発四六四号、同年二月一三日基発九〇号、昭和三〇年八月一日基発四八五号)点できわめて不合理である。

(ホ) 宿日直は労働密度が稀薄で本来の業務と一体として考察した場合労働力の保護に欠けることがないことを理由として本来の業務外の労働である宿日直について労基則第二三条による所轄労基署長の許可をもつて足りるとする見解がある。しかしながら、宿日直の労働密度が如何に稀薄であるといつてもそれを零と評価することができないことはきわめて明白である以上、本務外の宿日直をもつて断続的労働を本務とする場合と同一視することはできない。けだし、労働密度が稀薄な断続的労働は場合によつては八時間労働と質的、量的な面で同一視することが可能であるが、八時間労働の本務のうえに断続的労働を加えると、断続的労働が零と評価されない以上、八時間労働の原則を超過し、もはや、いかなる意味においても八時間労働と同一視することはできないからである。

(三) かりに、労基則第二三条の規定が違憲無効のものではないとしても、労基則第二三条に基づく所轄労基署長の許可は労基法上の免罰的効果を生じさせるだけで、これが直ちに宿日直義務を課する根拠となるものではなく、右許可にあわせ労基法第三六条による時間外労働協定の締結を経なければ宿日直勤務を命ずることはできないと解すべきである。けだし、労基則第二三条は労基法第三二条の規定の適用を除外しているが同法第三六条の規定についてはその適用を排除していないし、それに、労基則第二三条による所轄労基署長の許可は日常的、恒常的に行われる時間外労働としての宿日直を対象として行政的な配慮としてなされるのに対し、労基法第三六条の時間外労働協定は労基則第一六条の規定からも明らかなように本来、臨時的、例外的な必要に基づく場合を協定の対象とするもので、両規定の規制対象はそれぞれ異るばかりか、労基法第三六条は本務の労働時間を延長するについてさえ、同条による協定を必要としているのであるから、いわんや、本務終了後の宿日直については契約自由の原則や労基法における労働時間規制の趣旨に照らしても同条による時間外労働協定の締結を必要とするものと解すべきであるからである。しかるに、西条営林署において右協定は締結されていない。

(四) また、被告が宿日直義務の根拠と主張する林野庁制定の国有林野事業職員就業規則(以下職員就業規則という)第三六条および西条営林署長が制定した西条営林署宿日直規程も職員に対し宿日直を義務として課する根拠となるものではない。(イ)右職員就業規則が宿日直を命ずる根拠とならないことは昭和三二年一〇月二四日全林野と林野庁との間に締結された「月給制職員の俸給に関する協約」第一条にもとづいて定められた別冊の第六に掲記された普通職群の職務内容を本務とする職員にとつて宿日直がまつたく異質のものであり、それが本来の勤務時間外に行われるとされている点からも窺うに十分である。また、右就業規則制定後においても国有林野事業における宿日直の実態は先に明らかにしたとおり、管理者の一方的な命令によらずに職員の承諾をまつて行われ、その承諾がなければ宿日直を命じないという慣行が成立していた。したがつて、かかる慣行は右就業規則の解釈にあたつても当然考慮されるべきであり、右就業規則第三六条の規定中「……日直又は宿直を命ぜられることがある」旨の規定は職員の承諾を条件として、その勤務を命じうる趣旨を規定したものと解すべきである。また、職員就業規則第三六条は規定上明白なとおり、職員は必要がある場合は通常の勤務の外に宿日直を命ぜられることがある旨一般的、抽象的に規定しているにすぎない点で、右就業規則は個々の職員に対し直接かつ具体的に宿日直を命じ得る根拠となるものではない。さらに右就業規則は明文上宿日直はこれを必要とする場合にのみ命ずることがあると規定しているが、西条営林署においては一般職員による宿日直を必要とする事情がなかつたことは既に詳述したとおりであるから、宿日直命令は権利の濫用として無効である。(ロ)西条営林署宿日直規程は職員就業規則第三六条第一項に依拠して制定され、就業規則たる性質を有するものである。しかしながら、右宿日直規程はその制定にあたつて労基法第九〇条に規定された労働組合に対する意見聴取の手続はもとより、同法第八九条に規定された行政官庁への届出もなされていない。したがつて、右宿日直規程は就業規則として無効であり、宿日直を命ずる根拠となるものではない。

(五) 西条営林署における宿日直は所轄労基署長の許可条件に反する無効のものである。すなわち、同営林署の宿日直に対する所轄労基署長の許可は年末年始のみ二名、他の場合は一名とされていたにもかかわらず、西条営林署当局は右許可条件に反し、昭和三九年三月一五日の宿直を原告藤井と常藤和男、同年三月二九日の宿直を原告河村と尾和良治のそれぞれ二名に命じたのであるからこれら宿直命令は前記許可条件に反する無効のものである。かりに無効でないとしても、すでに許可条件に適合する宿直勤務者一名がそれぞれ存在するのであるから、原告藤井、同河村が右宿直をしなかつたからといつてそれを懲戒処分の理由とすることはできない。

以上の次第で、本件の宿日直勤務命令はその法的根拠を欠き原告らには宿日直勤務に服する義務はないから、かりに、原告らが宿日直を拒否し、または他の組合員をして拒否させたとしても、その行為はなんら業務命令違反の責を問われるべきではないし、さらに違法な争議行為を行つたものと評価されえないものである。

3 公労法第一七条第一項の違憲性について

(一) 公労法第一七条第一項は公共企業体等の職員および組合の争議行為を例外なく一律かつ全面的に禁止している点で、生存権の保障を基本理念とし労働者に対し労働基本権を保障した憲法第二八条の規定に違反するものである。

最高裁判所昭和四一年一〇月二六日判決(以下全逓中郵判決という)はいわゆる四条件のもとに公労法第一七条第一項を違憲でないと判断しているが、右判決は右事件の対象となつた郵便事業の公共性に着目してこれに対する関係においてのみ公労法第一七条第一項を合憲としたもので、他のすべての公共企業体等についてこれを合憲としたものではない。公労法の事業である三公社五現業の業務といつてもその性質、内容についてはもとより、公共性の程度も多種多様であり、また、争議行為による業務の停廃が国民生活全体に及ぼす影響の度合も区々であつて、その事業を個々的に検討すれば、中には民間企業である電気、ガス、私鉄より遙かに争議行為による国民生活に対する影響が僅少で争議行為を規制する必要がないものがある。したがつて、公労法第一七条第一項はかかる公共企業体等の事業の性質、内容、など各公共企業体間の差異をまつたく無視し、かつ、業務の停廃が国民生活に及ぼす影響の度合などを考慮しないで争議行為を一律かつ全面的に禁止している点で憲法第二八条に違反するものである。

(二) 最高裁判所昭和四四年四月二日判決(以下都教組判決という)は法律の規定は可能な限り憲法の精神に即しこれと調和し得るように合理的に解釈されるべきであるとして、規定上地方公務員の争議行為を一律かつ全面的に禁止している地方公務員法(以下地公法という)第三七条第一項の趣旨は、地方公務員の職務の公共性にかんがみ地方公務員の争議行為が公共性の強い公務の停廃をきたし、ひいては国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあるので、これを避けるためのやむを得ない措置として地方公務員の争議行為を禁止したものにほかならないと述べ、地公法第三七条第一項の規定は国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがある争議行為のみを禁止したものと限定的に解釈している。そして、かかる解釈をそのまま公労法第一七条第一項の解釈として援用し右規定を合憲であるとする見解がある。しかしながら、地公法第三七条第一項の規定に関する前記都教組判決の判断は右地公法の法文の規定から著るしくかけ離れ、法律解釈の限度を逸脱し立法作用に類するもので、とうてい合理的な解釈とはいえない。前記地公法の規定ばかりでなく公労法第一七条第一項の規定も限定的解釈によつて合憲となるものではない。

(三) かりに、公労法第一七条第一項の規定が違憲でないとしても、右規定は公共企業体等の職員および組合の争議行為のうち、国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な支障をもたらすおそれのある争議行為についてのみこれを禁止したものである。しかし、国有林野事業の職員および組合が争議行為をしたとしても、業務の停廃によつてなんら国民生活に影響を与えないから、右争議行為について一律かつ全面的に禁止した公労法第一七条第一項は憲法第二八条に違反するものである。

(1) 国有林野事業の公共性について

国有林野事業が国有林野の管理経営を主要な業務とする国営の企業であり、国土の保全、水源のかん養、国民の保健休養、動植物その他自然の保護など森林の保有する公益的機能を最高度に発揮させながら主要な林産物の持続的供給源としてその需給および価格の安定に貢献すること等を目的としている点で公益性を具備していることは否定しない。しかしながら、森林の保有する公益的機能は国有林野のみが独占的に保有する機能ではなく、また、国有林野に対してのみ森林資源の保持、培養および森林生産力の増進が期待されているわけではない。国有林野事業が民有林野事業と異るのは経営管理の対象が国有林野であるということのみで、事業の本質は民有林野事業となんら差異があるわけではない。国有林野事業の職員および組合の争議行為を規制するにあたつて問題とすべき事項は国有林野事業の公益性ではなく、むしろ、争議行為を規制しなければ保護することのできない法益の存否である。すなわち、国有林野事業の職員らの争議行為が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあるか、否かという観点からする右事業の公共性の程度である。しかし、国有林野事業は本質的に民有林野事業と変るものではないし、それに、民有林野事業に従事する労働者は争議権についてなんらの制約を受けていない(労調法参照)ことからすると、国有林野事業が、その職員等の争議行為を禁止するほど公共性を有するといえるか疑問であり、むしろこれを否定すべきである。

以下、国有林野事業の特質を考察しながら、その業務の停廃が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがない所以を詳述する。

(2) 国有林野事業と国民経済

(イ) 木材と国民生活

国有林野事業は経営主体が国である点で民有林野事業と異つた特色を有することは否定できないが、しかし、国有林野事業の本質は公企業性にあつて、国家固有の機能としての一般林政を担当するわけではない。国有林野事業は一般林業と同様に国民生活に対する関係においては森林の公益的機能と林産物の生産という二つの面で関連するにすぎない。しかして、国有林野事業は木材を中心とする国有林野の産物を国民経済に供給するとともにその供給源である樹木の育生を図つている。したがつて、国有林野事業は木材によつて国民経済に結合しているといえる。しかし、国民生活における木材消費の現状はほとんどなんらかの加工を経て生活の用に供されている点で木材の国民生活に対する関係は間接的であるといつて過言でない。しかも、国民生活の木材に対する需要はこれを建築用材に例をとつてみてもきわめて弾力的で木材の入荷が一時的に少々停滞したからといつて国民生活に与える苦痛の程度はきわめて軽微で、農水産物の供給が停滞した場合のそれとはとうてい比較にならない。したがつて、かりに争議行為によつて木材生産に支障を来たし、国民生活に対する供給の面で一時的に混乱が生じたとしても、これによつて直ちに国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な支障をもたらすおそれがあるということはとうていあり得ない。

(ロ) 国有林野事業の木材生産

国有林野の総面積はわが国の森林総面積の約三〇パーセントを占めているが、生産木材の数量は木材総需要量の僅か約一五パーセント強にすぎない。すなわち、国有林野事業はもはや木材市場を独占する事業ではない。現在では市場における輸入材の占める量も無視できない。それに、国有林野事業における木材の生産業務のすべてが右事業に従事する職員によつて実施されているかというと、そうではなく、樹木の大部分を立木のまま一般民間業者に売渡し、伐採から生産業務のすべてが民間業者の手によつて行われている。したがつて、国有林野事業の職員らによる争議行為はなんら木材生産に影響を与えるものではない。また、国有林野事業の直営製品生産の約二〇パーセントは下請業者が行つている。国有林野事業の職員が直接に生産に関与する木材の量は七六七万立方メートルの八〇パーセントに相当する概略約六〇〇万立方メートルで、これを昭和四三年の木材総需要量九、五八〇万立方メートルに比較すると、約六・三パーセントにすぎない。しかも、右直接生産量中国有林野事業の職員が関与するのは伐採から山元の集材までで、山元から貯木場に至る運搬は下請に出されているのが現状である。したがつて、以上のような実態からみれば、国有林野事業の職員らが争議行為を実施し、それによつて木材生産が少々渋滞したからといつて木材が涸渇するとか、木材価格の安定を害するなどのおそれはまつたくないのである。

(ハ) 林木の育成

農作物に比較して林業の場合樹木の生産過程を人為的に管理する度合はきわめて低い。とくに、天然林の場合は人為的な管理が加えられる量はまつたくとるに足りない。天然林に比較して労働に依存する度合の高い人工林の場合でも樹木の生育過程に投下される労働量はきわめて少く、その労働は下刈り、植付け、地ごしらえに集中している。国有林野においては労働量の低い天然林が全体の六七・三パーセントも占めているうえ、元来、樹木が成長し、伐採に適するまでの生育過程は人工林、天然林を問わず、四〇年から五〇年、時にはそれ以上の長期間を要するのである。したがつて、このような長期間を要し、かつ、投下労働量の少い樹木の生育過程に対し争議行為が与える影響を云々してもおよそ意味がないうえ、樹木が国民生活と関連するのは既述のとおり樹木が伐採され木材となつてからであるから、国有林野事業の職員らの争議行為が林木の育成、森林資源の培養に支障を及ぼすとの理由は右職員らの争議行為を規制するに足りる根拠とならないことは明白である。

(3) 森林の公益的機能と争議行為

(イ) 森林の公益的機能と施業制限

森林の公益的機能として主要なものは既述のとおり、国土保全、水源のかん養、国民の保健、休養等である。しかし、このような森林の公益的機能は森林を森林として存在させ、人為を加えないことによつて保持され、人為的に森林を利用し、かつ、樹木を伐採することはかえつて森林の公益的機能を害するものである。もとより、公益的機能の維持、増進のために労働力の投下を必要とする場合があることは否定できないが、森林の伐採は如何なる意味においても公益的機能の保持に反することは変りがない。このことは森林の公益的機能に着目し、これを確保するための制度である保安林、国立公園、国定公園等の各制度において、これら制度の趣旨目的を達成するため森林に対する各種の施業制度を設定し、樹木の伐採を規制していることに照らしても明白である。したがつて、国有林野事業の職員らが争議行為をしたからといつて森林の公益的機能が破壊されるということはなく、むしろ、それによつて樹木の伐採が遅延するならばかえつて森林は破壊から免がれるともいえるのである。すなわち、国有林野が公益的機能の面でいかに重要であるかを力説したところで、それを理由に国有林野事業の職員らの争議行為を制約することは許されないものというべきである。

(ロ) 森林の公益的機能確保のための労働

森林の公益的機能の維持、増進のために労働力を投下し伐採跡地の植林、造林、風水害等の跡始末等をする必要があることはいうまでもない。しかし、もつとも一般的な伐採跡地に対する造林に例をとつてみても、伐採跡地に早急に植林したからといつて樹木の成長には限度があるのであるから、森林の公益的機能がその植林によつて早急に回復するわけではない。森林の公益的機能の確保は伐採跡地に対する植林よりも、むしろ、既述のとおり伐採に対する規制によつて達成できるのであるから、かりに、争議行為によつて伐採跡地の植林に一時的な障害を来たすことがあつたとしても、そのため国民生活全体の利益に支障を及ぼすことはあり得ない。また、森林の公益的機能を補完する作用を有する治山事業は水源のかん養、土砂の流出、崩壊の防備、地滑りの防止等を目的とするものであるが、右事業は治水事業と異り国民生活という観点よりすれば間接的でしかない。しかも、国有林野は人口の分布とは対照的に人口密度の低い地方に偏在しているうえ、国有林野における治山事業の大部分は民間業者の請負によつて実施されているのが現状である。もとより、治山事業は公共事業として重視されなければならないが、以上の治山事業の性質、内容からみて、その停廃が直ちに国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な支障を及ぼすおそれはないものというべきである。

(4) 国有林野事業の業務と争議行為

争議行為といつても目的、手段、態様は多種多様であるが、一般的に争議行為は使用者に対してのみならず労働者に対しても有形無形の損害をもたらすので、各種の自制作用が働き、必ず終熄するものであつて本質的に一時的なものである。このことは国の経営にかかる国有林野事業の争議行為についても同様であつて、企業の大小や倒産のおそれの有無は争議行為の期間を決定する要因とはならない。もとより、争議行為は具体的条件によつて長期化しないものではなく、絶対に「国民経済を著るしく阻害し、又は公衆の日常生活を著るしく危くする」という事態が発生しないとはいえないが、かような異常事態については労調法の緊急調整に類した手段によつて対処し得るところであり、これを理由に争議行為一般を禁止することは許されない。国有林野事業の場合は全職場で全職員が一斉に争議行為に突入し、それが数カ月以上継続したとしても、国民生活全体の利益の支障となる事態を生ずるおそれはない。すなわち、国有林野事業においては既述の事業内容からして通常の規模、態様の争議行為による業務の一時的停廃によつては国民生活に重大な支障をおよぼすおそれはないのである。

(四) 以上の次第で、国有林野事業の職員らの争議行為を一律かつ全面的に禁止する公労法第一七条第一項は憲法第二八条に違反するものである。

4 本件闘争は公労法第一七条第一項の禁止に該当しないことについて

本件闘争が公労法第一七条第一項が禁止する争議行為に該当するか、否かは当該争議行為によつて停廃を受ける業務の性質、内容について吟味しないでこれを決定することはできない。

よつて、以下本件闘争の対象とされた西条営林署の宿日直の性質、内容および本件闘争の影響について述べる。

(一) 宿日直の性質、内容

国有林野事業はその業務の性質上夜間、休日に業務を遂行することはない。したがつて、夜間、休日における緊急連絡としては火災の場合を除いてないといつてよい。また、宿日直による各種財産の保全管理といつても国有林野が対象となるものではなく、庁舎その他構内施設等に対する盗難、火災の予防でしかない。しかし、この程度の業務のために職員に宿日直させる必要はなく、これに替る他の方法は数多く存在するのである。現に、宿日直を実施していない営林署は相当数に昇つていることからも明らかである。

(二) 争議行為の国民生活もしくは使用者に対する影響

争議行為が使用者に対しどのような影響をおよぼすかは現実に実施された争議行為のみならず争議行為に至るまでの準備体制を含めたすべてを一連のものとして評価すべきであるが、公労法第一七条第一項による争議行為の規制はもつぱら争議行為が国民生活にどのような影響を与えるかの観点よりなされる点で使用者に対するそれと評価が異るものである。すなわち、争議行為の国民生活に対する影響はあくまで現実に実施された争議行為による業務の停廃の程度とそれがもたらす国民生活への影響について判断されるべきもので、未だ争議行為が実施されないのに、それが実施された場合を想定してなされるべきではない。したがつて、本件闘争が、かりに昭和三九年春闘における公労協の半日ストライキの体制作りという意味合いを含めて実施されたとしても、右半日ストライキは現実には実施されなかつたのであるから、右半日ストライキが実施された場合をことさら想定し争議行為の影響を論んずべきではない。本件における争議行為の国民生活に対する影響は本件闘争に限定して判断されるべきで春闘全体という観点より判断すべきではない。

(三) 本件闘争が国民生活に対し与えた現実的影響

本件闘争が実施された昭和三九年三月一五日から同年四月一一日までの間になされた宿日直等闘争の実績は次のとおりである。右期間中組合員に割当てられた宿日直の延回数は四一回であり、このうち、組合員が割当どおり勤務したのは二一回、管理者の承諾のもとに交替したのは七回であるから、全体の約七〇パーセントの宿日直は平常どおり実施され、拒否された宿日直は延回数で僅かに一四回にすぎない。そして、右拒否回数の中には、ただ年度末で予算を消費する目的で必要もないのに宿日直員を二名とされた分も含まれているのである。したがつて、割当勤務者二名のうち一名が勤務に従事した場合はその分については管理者が勤務に就く必要はなかつたのである。結局管理者が交替を余儀なくされたとみられる宿日直の回数は宿直が六回、日直が二回で、闘争期間に占めるその割合は二〇パーセントにも満たなかつたうえ、管理者が宿日直に従事したからといつて、その業務になんら支障をおよぼした事実もない。西条営林署は比較的閑静な場所に位置していて門、塀、垣などによつて付近の建物などから区画され、しかも、構内には庁舎に近接して署長、事業課長、庶務課長、販売係長が居住する四戸の官舎があるうえ、職員八名が居住している寮もあつたので盗難、火災の危険性はきわめて低かつたし、郵便物等の接受、緊急連絡等の職務も十分賄えたのである。それに、宿日直はその職務が比較的単純なので、争議行為によつて右業務が停廃したとしても代替要員によつて処理できるのに、管理者は代替要員を確保していない。西条分会は代替要員の配置に反対した事実はなく、本件闘争は単純不作為の行為として実施されたもので、前記のとおり、西条営林署の業務に重大な支障を与えた事実もなければ、国民生活に重大な障害を及ぼした事実もないのである。

5 公労法第一七条第一項該当の所為に対する懲戒処分について

(一) 本件闘争が公労法第一七条第一項に該当するとしても、原告らを国公法第八二条により懲戒処分に処することは許されない。けだし、争議行為は団体的行為であるから、かりにそれが違法であるとしても、その構成員たる組合員各個人がその責を負うべきものではないし、また、公労法第一七条第一項は国民生活に対する関係においてのみ争議行為を規制するものであつて、公務員秩序維持の観点から争議行為を禁止したものではない。したがつて、同条違反の争議行為は直ちに懲戒に値するものというべきではない。

(二) かりにそうでないとしても、本件処分は懲戒権の濫用として無効である。既述のとおり、本件宿日直勤務の沿革、実態からすれば、原告らを含む職員はもとより管理者さえも宿日直勤務を職務命令をもつて強制されるべきものと解していなかつたことが明らかであり、また原告らの本件闘争によつて営林署本来の業務はもとより、宿日直勤務についても格別の支障を生じていないのであるから、本件闘争の違法性はきわめて軽微なもので懲戒処分をもつて臨むべき性質のものではない。また、本件処分は三カ月間の昇給延伸を伴うものとして運用されている点で苛酷である。さらにまた、本件処分は西条分会執行部役員の中でも原告らだけを対象としてなされ、原告らと同じく本件闘争を企画、実施した他の執行部役員に対してはなんら処分をなしていない点で著るしく公平を失するものである。

6 本件処分の不当労働行為性

本件処分は西条分会に対する支配介入の不当労働行為としてなされたものである。西条分会の組合活動は原告らを中心とする若手活動家によつて実施されてきたが、当局は組合活動を嫌悪し、昭和三八年末ごろから組合活動の弱体化を企図して組合活動に対する規制を強化したり、団体交渉をことさら拒否し、また、分会執行部や組合活動家を誹謗して一般組合員との離間を策すなど数々の不当労働行為を行つてきた。一、二その例をあげるならば次のとおりである。勤務時間内の組合活動や署内施設の利用はそのつど必要に応じて認められてきたが、昭和三八年初めごろから時間内組合活動を、執行委員会の開催などに限定し、署内会議室の使用等についても使用目的により規制するようになつた。そしてまた、藤井署長は昭和三八年一一月から毎月一回開催されることとなつた係長会議の席上住宅問題についての分会の要求に対し「組合の要求は組合員の総意とは思えない、組合の言分はアカに通じる危険な思想である」「多くの職員は話ができるが一部に話のわからぬ奴がいて困る」などと組合や組合活動家を誹謗する発言をした。その他、当局は組合との確認を無視して某職員をなかば強制的に勧奨退職させたり、作業員の常傭化をことさら遅らせたりし、また、団体交渉の席上では組合の要求を拒否しながら、結局はその要求どおりことを運び、さらには、組合活動を理由として組合活動の中核であつた山中澄雄(分会教宣部長)、松本英雄(分会青年婦人部教宣部長)らを他の職場へ配転したりした。

以上の次第で、本件処分はかような不当労働行為の一環としてなされたものであるから無効である。

四  原告らは昭和三九年七月七日人事院に対し本件処分の取消しを求めて審査請求の申立をしたが人事院はこれに対し三か月を経過するも未だに裁決をしない。

五  よつて、原告らは本訴において本件処分の取消しを求めるものである。

(請求原因に対する認否と主張)

一  請求原因一、二、四項の各事実は認めるがその余の事実はいずれも争う。

二  本件の処分事由と原告らの主張に対する反論

全林野は昭和三九年春闘において大巾賃上げ等の要求項目貫徹を目指して闘争を展開したが、全林野の地方組織である大阪地方本部所属西条分会は右春闘の体制作りとして順法闘争と称し、同分会独自の企画に基づいて昭和三九年三月一五日から同年四月一一日までの間西条営林署本署において同営林署長の発した宿日直勤務命令を拒否し、宿日直勤務に服さないとのいわゆる宿日直拒否闘争を実施した。しかして、右闘争は西条営林署に勤務し、かつ、西条分会執行部役員であつた原告ら(原告藤井は同分会書記長、同高山は同分会副執行委員長、同河村は同分会執行委員)が企画し、同営林署に勤務する分会所属組合員をして宿日直勤務を拒否させて右計画を実施せしめたものであり、また、原告藤井、同河村は自らも割当られた宿直を拒否し、もつて、西条営林署の業務の正常な運営を著るしく阻害したものである。

そこで以下、宿日直勤務命令の法的性質、西条営林署における宿日直の内容、本件闘争のいきさつ、内容等について詳述する。

1 国有林野事業における宿日直勤務命令の法的根拠

(一) 職務命令としての宿日直勤務命令

営林署長は国有財産法にもとづき、庁舎その他の施設管理の万全を期するための管理責任を有し、同法を根拠とする農林省所管国有財産取扱規則第二条によつて大阪営林局長が定めた営林署国有財産分掌事務取扱準則第三条は「営林署長は、その管理する国有財産の現状を常時は握し、その管理及び処分を適正に行わなければならない」と規定している。したがつて、営林署長は庁舎等の施設管理保全等のため、宿日直制度を採用して所属の職員にその職務を分掌させうることは当然といわねばならない。

されば営林署長の命令による所属職員の宿日直勤務は国公法第一〇五条にいう「法律、命令、規則または指令による職務」であり、また営林署長の発する宿日直勤務命令は同法第九八条所定の上司の職務上の命令に該当する。

(二) 宿日直勤務を命じうる法的根拠

(1) 国有林野事業の労働関係は昭和二八年一月一日から公労法で規律され、また、職員には労基法が適用されるようになつたが、それ以前における右職員の勤務関係は宿日直を含め、すべて他の一般職に属する国家公務員と同様に規律されてきた。

すなわち新憲法施行前の官吏その他政府職員の勤務時間の定めは「官庁執務時間並休暇ニ関スル件」(大正一一年閣令第六号最終改正昭和二五年二月二五日総理府令第四号)に依拠し、時間外勤務ならびに宿日直は右閣令第六号第三項の「事務ノ状況ニ依リ必要アルトキハ執務時間外ト雖執務スベキモノトス」との規定を根拠として所属長の必要性の判断によりこれを命ずることができるものとされた。右閣令第六号は新憲法施行後も「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律」(昭和二二年法律第七二号)や「国家公務員法の規定が適用せられるまでの官吏の任免等に関する法律」(昭和二二年法律第一二一号)によつて国有林野事業に公労法が適用されるまでその効力を保有していた。しかし一方、宿日直手当については、昭和二二年労基法等の施行にともない昭和二二年法律第一六七号「労働基準法等の施行に伴う政府職員に係る給与の応急措置に関する法律」に基づき、大蔵大臣が「昭和二二年法律第百六十七号による給与支給準則」を制定し、同準則において初めて国家公務員に対し、所定勤務時間外の勤務については超過勤務手当を支払うこととなり、そのうちの一つとして定額の宿日直手当が定められ、しかもこのような「超過勤務は命令(超過勤務命令簿によつて命令すること)をもつてする以外の勤務は一切之を認めぬこと」とし、右給与支給準則第六条(日直手当)および第七条(宿直手当)によると、それぞれ「職員がその所轄庁の長の命により」勤務した場合に所定の手当を支給すると定められている。

以上のとおり宿日直勤務は終戦後も前記のような根拠に基づく命令により、その勤務に対し、所定の手当を支払うこととし、林野庁職員を含む国家公務員全体がこの取扱によつて実施して来た。そして昭和二三年六月三〇日には大阪営林局長は管内各営林署長に対し「宿直及び日直設置について」との通牒を発し署長が必要と認めるときは、宿日直を制度として採用し、職員の輪番制による宿日直勤務について、勤務命令簿を備えてこれを整備するとともに労基法ならびに前記昭和二二年法律第百六十七号による給与支給準則等関係法規に違反しないようにと指示し、管内各営林署において順次輪番制としての宿日直を採用してきた。このように林野庁職員を含む国家公務員は昭和二八年一月一日林野庁職員に公労法が適用されるまでは、宿日直勤務は所轄の長が職員に命ずるものであり、この命令に基づいて勤務をした場合に所定の宿日直手当が支給される建前となつていた。しかし、公労法適用と同時に国有林野事業の職員には労基法が適用されることとなつた結果、その宿日直については就業規則あるいは労働協約に規定がない限りよるべき根拠がなくなつた。そこで、林野庁は全林野の前身である全林野職員労働組合と「労働条件の暫定的取扱に関する協定」(昭和二八年一月一日付二八協第一号の一)(以下暫定協定という)を締結しこの協定において「林野庁(営林局営林署及び林野講習所を含む。)の職員の労働条件については、従前適用されていた国家公務員法その他の法律及びこれに基づく政令規則、指令、細則、訓令、通牒等の例により取り扱う。」と定め、従来実施してきた宿日直勤務およびこれに対する手当の支給を公労法適用後も労使の合意によつて存続させることとした。そして昭和三〇年四月一日職員就業規則を制定施行し、同就業規則第三六条第一項をもつて既に前記暫定協定にもとづき実施して来た宿日直勤務を明示的に「職員は火災、盗難等の予防、急を要する文書、電信又は電話の接受等のため必要がある場合には所属の長の定めるところにより通常の勤務の外に日直又は宿直を命ぜられることがある」と規定した。

(2) 右就業規則の規定制定のけいいに徴すると、右規定は従前前記閣令第六号第三項の規定や暫定協定により実施されてきた国有林野事業における宿日直制度を改めて具体的に確認したものにすぎないもので、新たに国有林野事業の職員に宿日直勤務の義務を負わせたものではない。(ちなみに、前記就業規則制定に際し、右第三六条の規定につき全林野からなんら修正、反対の意見はなかつた)。かりに右就業規則が職員に新たな宿日直義務を創設したものであるとしても、右就業規則はなんら法令、労働協約に違反するものでなく内容も合理的なものであり、また、宿日直勤務の必要もあつたのであるから、就業規則の法的規範たる性質に照らし、個々の職員の同意なしに宿日直を義務づけ得るものである。このことは、右就業規則第三六条が「必要がある場合には……通常の勤務の外に日直または宿直を命ぜられることがある」と規定しているその文言自体から明白であり、また、就業規則第三六条に基づき所属長が職員に対し宿日直勤務を命令でき職員がこの命令に服する義務があることについては従前労使の見解は全く一致していた。すなわち、昭和四〇年に林野庁と全林野との間に締結された「月給制職員の超過勤務手当、休日給、夜勤手当および宿日直手当の支給に関する協定」第六条は「宿日直手当は職員が宿日直勤務、又は日直勤務を命ぜられ、当該勤務に従事した場合に支給する」と定めているのである。なお、原告は宿日直命令簿の命令印が事前に押捺されずに職員の承諾をまつて押捺されていたから宿日直は義務として行われていたものでなく、慣行的に職員の承諾を条件として実施されていたものであると主張するけれども、そのような慣行は存在しなかつた。かりに、宿日直を命令した当時宿日直命令簿に命令権者の捺印がない場合があつたとしても、職務上の指示命令自体は要式行為ではないから、これによつてその効力が左右されるものではない。また、昭和三二年一〇月二四日付月給制職員の俸給に関する協約第一条に基づいて定められた職務分類の基準に示されている普通職の職務内容に宿日直勤務が掲示されていないことも原告ら主張のように宿日直が義務でないとする根拠とはならない。すなわち、右協約は国有林野事業の特殊性に合致した給与体系を樹立するとの見地から締結されたもので、右協約にもとづいて作成された職務分類の基準は俸給表適用の手段としてそれぞれの職群に属する職員の本来の職務内容を例示的に挙示したにすぎないもので、宿日直のように本来の職務に付随して行われる職務は右分類表中に記載されるべき性質のものではないことから記載しなかつたものである。

(三) 宿日直勤務に関する労基法上の取扱い

労基法上、本件のように本来の業務に加えて宿直および日直勤務を命ずることが許されるとする規定は同法第四一条第三号ならびに労基則第二三条である。すなわち労基法第四一条第三号は同法第三二条の例外規定である。そして、労基法第四一条第三号に規定している「監視又は断続的労働に従事する者」とは原則として「一定部署にあつて監視するのを本来の業務とし常態として身体又は精神的緊張の少い者や休憩時間は少いが手待時間の多い者」を指称するものであるが、右の中にはその労働を本来の業務とする者ばかりではなく、他の業務を本務とする者が付随的に監視または断続的労働に従事する場合も過度の労働とならないことを条件として含まれるものと解すべきである。したがつて労基則第二三条は労基法第四一条第三号の規定に基づきその細則を定めたものであるから、右労基則の規定はなんら原告ら主張のように憲法や労基法に違反するものではない。労基則第二三条が宿日直を本務とする者に適用される労基則第三四条の許可申請書と異り、とくに、宿日直の欄ごとに総員数一回の員数、勤務の開始および終了時刻、一定期間における一人の回数、一回の手当額、勤務の態様、さらに就寝設備についての記載を要求している趣旨は宿日直が本来の業務に対し付随的なもので、しかもそれが過度にならないことをもつて許可の基準としたものである。すなわち、労基則第三四条は宿日直を本務とする場合を、労基則第二三条は宿日直が付随的な場合をそれぞれ区別して規定し、もつて、労基法第四一条第三号の趣旨目的を具体的な許可基準の運用において生かそうとしたものであつて、労基則第二三条の許可を得た場合は、その宿日直勤務については、労基法第三二条のみならず、同法第四章および第六章で定める労働時間、休憩および休日に関するすべての適用を受けることなく宿日直勤務を命ずることが許容されるのである。

(四) 西条営林署は一七カ市町村にまたがつて国有林野約九、六〇〇ヘクタールを直接管理し、そのため管内に多数の施設を擁し、合計一四の担当区事務所、事業所を設置してこれを分掌させている。ところで同営林署本署は右業務運営の本拠としての位置を占めるとともに管理運営上極めて重要な多くの文書、帳簿、官印、極印、等を保管しているうえ、署長は正規の勤務時間外といえどもこれら施設等につき火災、盗難防止等の管理責任があり、また、営林署業務としても、急を要する文書、電信、電話(山林火災の場合の担当区事務所からの緊急連絡がその一例である)を接受する必要がある。したがつて、西条営林署において宿日直制度の必要性があり、本件宿日直命令は右必要性から発せられたものであるから、職員就業規則第三六条に違反するものではない。

(五) 西条営林署が制定した宿日直規程は就業規則たる性質を有するものではない。すなわち、右宿日直規程は昭和三五年末林野庁が宿日直業務のより円滑な運営を図る目的で各営林署の宿日直の実態に合致した規程を作成するように指導した結果昭和三六年一月作成されたものであつて、宿日直勤務の内容、勤務に際しての注意事項、勤務の順序など宿日直員の服務基準を定めたにすぎず、宿日直員の労働条件を規律する性質のものではないから就業規則たる性質を有するものではない。それに、労基法第八九条、第九〇条の手続はなんら就業規則の効力要件ではない。そればかりではなく、右宿日直規程の内容は労基法第二三条により労基署長の許可を得た内容となんら変るところがないものであるから、右規程の作成過程に主張のようなかしがあつたとしても、本件宿日直命令の効力が左右されるものではない。

(六) 所轄労基署長の許可条件と異る宿日直命令であつても、労働条件が許可条件よりも不利益に変更されていないと総合的に判断される場合は右宿日直命令になんら違法とすべき事由はない。西条営林署における労基則第二三条の宿日直の許可条件は宿直は一カ月一回、日直は四カ月一回という割合を一応の基準とし、かつ、年末年始はとくに二名として命令することができるというものであつた。したがつて、かかる許可条件のもとにおいて山林火災の多発期である三月のうち、土曜日、日曜日、祝日の勤務に限り、宿日直員を二名に増員したからといつて、総体的に労働条件として不利益なものとはいえない。

2 西条営林署における宿日直の内容

西条営林署は前記昭和二三年六月三〇日付大阪営林局長の「宿直及日直設置について」と題する通達に基づき当時の社会状勢の悪化や営林署業務の増大による庁舎の警備、不測の業務処理等に対処するため、宿日直に必要な諸設備の整備を図つて職員による輪番制宿日直勤務を導入した。そして、昭和三一年一一月には労基則第二三条による所轄広島労働基準監督署長の許可を得(昭和三八年八月二一日勤務時間の変更にともない許可を取り直した)、その後、林野庁の前記指導に基づき昭和三六年一月六日付で宿日直勤務のより円滑な運営を図る目的で西条営林署宿日直規程を作成しこれを同営林署備付の宿日直日誌に編綴して職員に周知せしめてきた。しかして、同営林署の宿日直は前記職員就業規則および右宿日直規程にしたがい概ね次の要領により実施されてきた。すなわち、同営林署の宿日直は、署長、管理官、運転手、女子職員、健康診断の結果勤務不適当と認められた職員等を除き課長、係長以下の職員が一定の課順で職員給与簿の順序にしたがい輪番で勤務すべきものとされ、そして、勤務割当表は経理課長が作成し毎月の宿日直開始の少くとも五日前までに庁舎職員通用口付近黒板に記入掲示されるとともに、昭和三八年一〇月ごろからは勤務割当表を各課職員全般に回覧して周知徹底させていた。そして、宿日直命令は右割当表に基づいて宿日直勤務命令簿を勤務割当者に提示してなすが、右命令簿は経理課長もしくは庶務課長が所要事項((勤務すべき月日、時間、宿日直別、回数(五時間以上の勤務は一回とみなし、五時間未満の勤務は〇・五回として計算)))を記入して管理官の命令印の押捺を受け、これを勤務割当者に提示して命令を伝達しこれに対し、勤務割当者は受命の証として右命令簿中「従業者印」欄に自己の印を押捺すべきものとされた。勤務割当表による宿日直の順番の交替は交替を希望する職員が自主的に交替者を選定し、事前に経理課長に理由を具申し、経理課長がその申出理由と交替者の有無を総合的に判断して交替を認めても支障がないと認めた場合にこれを承認するということで、円滑に運用されていた。そして、宿日直勤務の内容は職員就業規則第三六条第一項に規定されているように営林署における施設、設備および書類等の保全、外部との連絡、文書の収受ならびに構内の監視であつたが、西条営林署における宿日直員が日常処理すべき職務内容は西条営林署宿日直規程第六条に規定され具体的には(一)電信、電話、速達小包等の郵便物の接受、(二)庁舎内各室、構内とくに車庫、倉庫あるいは玄関等の巡視と施錠の確認、(三)自動車類等の員数点検、(四)火災、不法侵入者等異常の有無等の点検、(五)緊急を要する事項の処理、すなわち、国有林、庁舎公務員宿舎、寮等における火災発生時の緊急連絡等が含まれている。

3 本件闘争のいきさつと内容

(一) 昭和三九年春闘と全林野の春闘計画

全林野は昭和三九年春闘において大巾賃上げ、差別・アンバラ撤廃、林政民主化の要求を掲げ、これら要求項目を貫徹するための闘争を計画した。右闘争計画は闘争山場に公労協による半日以上の統一ストライキ実施という手段を含むものであり、しかも右統一ストライキ実施までの間に長期間の体制作りの期間を設け、その間に数多くの職場大衆闘争を積み重ね物情騒然たる職場地域の情勢を作り政府当局に迫るというものであつた。全林野は昭和三八年一一月二七、二八日から昭和三九年一月三一日にかけて中央委員会や戦術会議を開催し、前記大巾賃上げなど三項目の春闘方針を採択するとともに、右闘争の体制作りのための具体的大衆行動の細目などを決めたが、今季闘争においてはこれら大衆行動の選択は各下部機関がそれぞれ独自に創意工夫し、組合員全体で討議して採択実施すべきものとされた。

(二) 大阪地本における春闘計画

大阪地本は、昭和三九年二月三日同地本執行委員会で全林野が決定した春闘方針や闘争戦術を確認するとともに、大阪地本の具体的行動計画として同年二月四日から一四日までの間全林野中央本部と一体となつてブロツク別幹部、活動家オルグを行うなどの諸計画を決定した。右決定に基づいてブロツク別幹部、活動家オルグによる協議会は二月四日の北陸支部を皮切りに同月一二日、一三日の西中国支部協議会を最終として順次開催された。

(三) 本件闘争が企画決定された経過

西中国支部協議会は昭和三九年二月一二、一三日広島営林署宮島保養所において開催され、西条分会より分会書記長原告藤井、同書記次長山中澄雄、同執行委員只政伸男の三名が出席した。右席上、全林野中央執行委員神原二郎、大阪地本闘争委員弘中保之は今季春闘における体制作りのため順法闘争や大衆行動等の進め方について指導したが、それによると、順法闘争というのは安全点検を主体とした闘争であり、大衆行動とは集団交渉、陳情、シユプレツヒコール、リボン、鉢巻等の着用、時間外職場大会の開催等であり、とくに今季闘争ではこれら闘争の実施については前年までと異なり上部団体の統一指令によらず、各下部機関が独自に創意工夫して実情に応じた闘争戦術を採択すべきものとされた。ところで、本件宿日直拒否闘争は闘争戦術として前記大衆行動を上廻るものであり、かつまた、それは前記順法闘争に属するものではなく、この戦術は前記上部団体幹部らによつて積極的に指導されたものではない。もつとも、右協議会の席上、原告藤井が宿日直拒否闘争を順法闘争として今季春闘の中で積極的に推進してよいかと質問したのに対し大阪地本の弘中は春闘の体制確立の中で積極的にやつてよろしいと答えたとされている。しかし、右答弁の趣旨は宿日直をしない運動はこれまで全林野等の方針に基づき日常普段の運動として推進されてきたので、これを改めて再確認したにすぎず、本件闘争のような強力な闘争戦術の採択と実施を指導したものとみるべきではない。けだし、もし、右席上本件のような宿日直拒否闘争の展開が指導されたとするならば、当然当局の業務命令に対処する対策や闘争の進め方などについて具体的な論議が交わされるべきであるのに、かかる論議はまつたく交わされていないし、本件闘争のような宿日直拒否闘争は西条分会を除く、他の分会ではまつたく実施されていないからである。したがつて本件闘争は全林野が企画した昭和三九年春闘の一環として実施されたものであるが、それは全林野や大阪地本の企画指導のもとになされたものではなく、次に述べるように、西条分会執行委員会もしくは同分会闘争委員会によつて企画されたものである。

すなわち、西条分会執行委員会は前記西中国支部協議会終了直後の昭和三九年二月一五日西条営林署みやま寮で原告らを含む分会全執行委員が出席して開催されたが、右席上、原告藤井が中心となつて前記西中国支部協議会の経過報告を行い、西条分会としても全林野の春闘方針にしたがつて今季闘争を進めることを確認するとともに右春闘の体制作りとしていかなる具体的闘争を進めるかなどを協議した結果、右闘争計画として宿日直拒否、リボン戦術などを行うこと、さらにこの戦術的指導機関として原告らを含む執行委員一一名、班委員九名、青年婦人部委員四名の合計二四名で構成する闘争委員会を設置することとし、今後の闘争計画の分担としてオルグ計画を原告藤井が、職場大会の司会を原告高山が、文書戦を原告河村が、それぞれ担当することを決め、第一回闘争委員会を二月二三日に開催して具体的闘争計画を協議することなどを決定した。第一回闘争委員会は二月二三日西条営林署会議室で原告らを含む闘争委員十数名が出席して開かれ、春闘の体制作りとしての具体的な闘争戦術として超過勤務命令拒否闘争、年令別会議の設置、作業員学習会、主任補助員ならびに主婦会のオルグ、文書戦などを決めるとともに、三月末を期して西条分会のストライキ権を確立することとしたが、その際右闘争戦術の一環として昭和三九年三月一四日から同月一九日までの間西条営林署において宿日直勤務命令拒否闘争を実施することを決定した。ついで、闘争委員会は三月四日昼休み西条営林署会議室に組合員三〇余名を集め、原告高山が議長となつて職場大会を開き闘争委員から前記二月二三日の闘争委員会で決定した本件宿日直拒否闘争を含む前記春闘計画を提案し、同計画を実施することを決議させた。原告らは、三月四日の職場大会では各組合員の事情の許す限り、希望しない宿日直はしないよう申し合わせたにすぎない旨主張するが、右主張は事実に反し、前記けいいからみても右職場大会の決議は原告ら組合役員が発議し、組合員を勧誘、説得した結果によることが明らかである。

(四) 本件闘争に対する西条営林署当局の対策

西条分会が本件闘争を実施することを察知した西条営林署長藤井佐太郎は三月一二日午後四時ごろ村上管理官、二木庶務課長、板倉経理課長、大畑労務係長とともに対策を協議した。その結果(1)説得に努めることに特に主体をおく、(2)個人の説得のみでは十分でないので明一三日分会役員に警告を行なう、(3)勤務できないとする職員については真に止むを得ない個人的事情が存在するものか、あるいは分会の指導によるものかを確認する、(4)説得に応じない職員には文書による業務命令を発する、との対策を決定した。三月一三日藤井署長は登庁後原告藤井、同河村のほかに山中書記次長、常藤、今川各執行委員を署長室に呼び組合は宿日直拒否闘争を計画しているようであるが、宿日直命令に従わないことは義務違反であるし、違法なことであるので、すみやかに中止してもらいたい旨説得および警告を発した。しかし、原告らはそのような闘争計画はしていないと発言し、右説得および警告に従おうとしなかつた。

(五) 三月一四日、一五日の宿日直の状況

三月一四日(土曜日)の日直割当者松本正志に対し板倉経理課長は三月一三日午前九時四〇分ごろ所定どおり宿日直命令簿を示して日直勤務命令を伝達したが、松本は「明日から宿日直拒否に入るから勤務できない」と言つて応じないのですでに察知していたとおり分会が企画決定した本件闘争が現実に開始されたものと判断して署長の業務命令書を手交したところ同人は命令に従い勤務に服した。

三月一五日(日曜日)の日直割当者である今川忠男、芦田弘志の両名に対しても、板倉経理課長は三月一三日午前九時ごろ前同様宿日直命令簿を示して日直勤務命令をそれぞれ伝達したが、両名ともただ家事の都合で勤務できないと言うのみで従来のように交替者を自主的に選定することもしなかつたし、同課長の説得にも応じなかつた。そこで、板倉課長は両名に対し藤井署長の業務命令書をそれぞれ手交したところ、両名とも命令に従い勤務に服した。

(六) 原告藤井、常藤和男の三月一五日の宿直拒否

三月一五日(日曜日)の宿直割当者は原告藤井と常藤和男の両名であつた。二木庶務課長は三月一三日(金曜日)午前九時すぎ常藤に対し所定どおり宿日直命令簿を示して三月一五日の宿直命令を伝達したが常藤は種々言訳して受命せず、二木庶務課長の説得にも応じなかつた。二木庶務課長はついで、原告藤井に対し常藤に対する場合と同様宿直命令を伝達したが、同原告も都合で勤務できないなどと言うのみで、交替者の選定はもとより勤務できない具体的理由も述べなかつた。そこで、二木庶務課長の報告に基づいて藤井署長村上管理官らが協議のうえ業務命令書を原告らに手交した。しかし、両名は二木庶務課長や大畑係長の執ような説得にもかかわらず、これを拒否し、三月一五日の宿直に従事しなかつたので、当日の宿直はやむなく二木庶務課長が勤務した。

(七) 向台忠行の宿直拒否に対する原告高山らのそそのかし行為

三月一六日(月曜日)の宿直割当者向台忠行に対し板倉経理課長は当日午後四時三〇分ごろ向台の席に赴き所定どおり宿直命令を伝達したところ、向台は「一寸まつてくれ」と申し出た。そこで、板倉課長は終業時刻(午後四時四五分)間近の午後四時四〇分ごろ再度向台の席に赴き宿直命令を伝達したところ、向台は都合が悪くて勤務できないなどと言つて受命を拒否した。そこで、板倉課長は藤井署長の指示を得て向台に業務命令書を手交しようとしたけれども同人は受領を拒否したので、右命令書を向台の机上に置いた際、向台の席の近くにいた原告藤井、同高山の外に、同河村、山中の両名もその場に来て向台を取り囲むような格好になり、まず、原告高山が向台に対し「もう五時になつたから帰ろう」と誘いかけた。このため二木庶務課長は原告高山に対し「おかしなことを言つてくれるな、向台にはすでに宿直命令が出ている」と注意したところ、原告高山は「何も宿直するなとは言つていない、友達として五時になつたから帰ろうと言つているんだ」と反駁した。そこで二木庶務課長は「このように組合役員が多数集つて帰ろうと言うことは友達として言つているとは思えない。組合として言つているのではないか」と反問したところ、原告ら前記四名の者はこもごも「本人はまだ命令を貰つていないと言つている」とか「したくない者に無理にさせることは大権じゆうりんではないか」と言つて当局の向台に対する説得を妨害するとともに向台が当日の宿直を拒否することを支援した。その間向台はなんら発言をしなかつた。

以上のいきさつを目撃した藤井署長はもはや本件闘争を放置できないものと判断し、直ちに三宅執行委員長を部屋に呼び本件闘争を中止するように勧告したが三宅は本件闘争は組合が決めたことで中止するわけには行かないと言つて退室した。藤井署長は直ちに向台の席に赴き宿直を拒否するかどうかは自分自身で決めることで他人は向台をそそのかすようなことはしてくれるなとの趣旨を述べたところ、向台はそれでは宿直しないで帰ると言つて庁舎通用口の方へ向つた。しかし、向台は一般組合員であるため同人が宿直を拒否すれば、他の一般組合員に対する影響も大きいので、二木庶務課長は帰路についた向台を追い更衣室前で再度翻意するように説得した。しかし、会議室から出て来た原告河村が「まだやつているのか」と言いながら、二木庶務課長の傍から離れず監視するので、向台も翻意する余地がなく帰路についた。その際、板倉経理課長も向台を重ねて説得したが向台はこれに応じなかつた。

以上の経過から明らかなとおり、向台は最初、宿直を命令されたときは勤務につくか否か返答を留保し、命令を明確に拒否する態度に出なかつたのであるから、もし、原告高山らが向台に対し宿直を拒否するようにそそのかしたり、命令伝達を妨害するような所為に出なかつたならば、向台は当日の宿直勤務に従事したものと考えられる。したがつて、向台が所定の宿直に従事しなかつたのは原告高山らの前記行為に起因するものである。ところで、向台は一般組合員で最初に宿直を拒否した者であり、原告ら執行部役員は向台の右拒否行為を契機として後記のとおり闘争期間を延長したのであるから、向台の宿直拒否は本件闘争全体の中でもとくに重要な意義を有するものであり、当局の命令伝達を妨害し、向台をそそのかして宿直を拒否させた原告らの責任は重大といわねばならない。

(八) 闘争期間延長のいきさつ

西条分会闘争委員会は昭和三九年三月一七日昼休み西条営林署会議室で職場大会を開催し、原告高山が司会し、前記のように三月一五日原告藤井、常藤が、翌一六日向台が、文書による業務命令を拒否したことにつき報告説明したうえ当初の計画どおり三月一九日までの拒否闘争で終わると、もし、懲戒処分が行われた場合には宿日直を拒否した右三名のみこれを受ける結果となつて孤立化するおそれもあり組合員間の公平を失するとし、組合員全員の宿日直勤務割当が一巡するまで拒否期間を延長すべきことを提案した。右闘争委員会の提案に対し、組合員の意見は一致しなかつた。そこでさらに、三月一八、一九日と連日職場大会を開催し、また、組合員の年令地位等を勘案した階層別の討議を重ねたが意見はまとまらなかつた。とくに、本署勤務の組合員の約半数を占める係長および三〇才以上の組合員は、懲戒処分の対象となるような宿日直拒否闘争はしたくないという意見を表明し、また、業務命令に対しては従うべきであるという意見であつた。しかし、原告ら執行部役員は鋭意職場大会をリードし、最後には組合員をして闘争期間を延長するか、否かは署内闘争委員の決定に一任する旨の決議をするにいたらしめ、かくして原告藤井、同高山が中心となつて(1)宿日直勤務はしない方針をとる、(2)業務命令で強要された場合自分の意思で断われる人は完全に断る、(3)どうしても断われない人は闘争委員とともに抵抗を試みる、との案をまとめ、原告高山がこれを三月一九日退庁時から西条営林署会議室で開催された職場大会に提出してその旨組合員を決議させ、その結果、本件闘争は三月二〇日以降も組合員全員に宿日直勤務割当が一巡するまで引き続いて実施されることとなつた。

(九) 三月一七日から三月一九日までの宿直の状況

三月一七日から三月一九日までの宿直については命令拒否の事態は発生しなかつた。すなわち、三月一七日の割当者上田博圀は、これ以前に二木庶務課長が割当を受けていた勤務を交替して勤務した関係上、同日は二木課長が勤務した。三月一八日は当番にあたつていた板倉経理課長が勤務した。三月一九日の割当者は三宅一之であつたが同人は風邪気味で医師の診断を受けていたので交替が承認された。

(一〇) 三月二〇日以降の宿日直の状況

前述のように、三月一九日の職場大会で、三月二〇日以降、割当が一巡するまでの間引続き宿日直勤務命令拒否闘争を実施することを決定したため三月二〇日以降の勤務割当を受けた職員は命令を伝達すると、例外なく割当の変更を求めるか、あるいはさしたる理由も述べずに勤務に従事することを拒否した。そこで営林署当局は勤務割当の変更を申し出た者に対してはその理由を質問し、その理由が是認できる者に対しては交替を承認し、交替者を組合員の中から求めようとしたが、他人に代つて勤務につこうとする者が全くなかつたため、やむなく管理者において交代勤務した。一方、理由を全く申し出ずに、ただ宿日直勤務をしたくないと言う者や一応の理由は申し出てもその理由が全く不相当で勤務命令を巧妙に言い逃れようとしていると認められた者に対しては極力勤務に服するように説得したが、これに応じた者は一人もなく、やむなく個々に業務命令書を手交したところ、組合員全員に勤務割当が一巡する四月一〇日までの間に割当どおり勤務に従事した者は延三名にすぎず、その余の延一一名は遂にこの命令を拒否して勤務に服さなかつた。

なお、例年三月は、空中湿度、気温、地被物の状況等から山林火災が集中的に頻発している実情を考慮し、これに対処するため三月中の土曜日、日曜日および祝日の宿日直(ただし、三月一日ならびに土曜日の日直を除く)に限り、平常と異り、各一名あて増員し、二名としていた。

(一一) 原告河村の三月二九日の宿直拒否

三月二九日(日曜日)の宿直割当者は原告河村と尾和良治であつた。板倉経理課長は三月二八日午前一〇時三〇分ごろ所定のとおり原告河村に宿直命令を伝達したところ、同原告は順番がおかしいとか、黒板に自分の名前が書いてないとか言つて受命しようとしないので、同課長が給与表等で順番を確認するとともに掲示板に原告河村の名も掲示された旨懇切に説明し、勤務に服するように説得したが、これに応じなかつた。そこで、藤井署長は同原告に対し業務命令書を手交したが同原告は遂に勤務に服さず結局、同日の宿直は村上管理官が勤務した。

(一二) 中内正治の宿直に関する原告河村の妨害行為

二木庶務課長は三月三〇日の宿直割当者中内正治に対し、当日午後四時ごろ所定どおり宿直命令を伝達したところ、中内は、当日は退職者の送別会に出席するため宿直に就けない旨申し出で、さらに同課長の説得を受けるや少し風邪気味で勤務できないと理由を変えた。しかし、同人には病気の気配も認められなかつたので、二木課長は中内に対し三〇日の勤務が都合が悪いのなら翌三一日の勤務割当者と交替して勤務するよう説得していた際、原告河村は同課長に対し、「病気だという者に無理に勤務をさせることはないではないか」と言つて同課長の説得を妨害した。二木庶務課長は中内に対しなおも説得を続け、同人に病気で勤務できないのであれば診断書とかこれに代る証明書を提出するように指示したところ、原告河村は再び同課長に対し「診断書を出すような義務はないだろう」と発言して説得を妨害した。結局、中内は診断書を提出することも承知せず、その後業務命令書を交付しようとしたが、これも受領せず、右命令をも拒否して勤務に服さなかつたので同日はやむなく二木庶務課長が勤務した。

(一三) 本件闘争の終了

本件闘争は、前述のとおり組合員全員に宿日直割当が一巡するまで続けるというものであつたから、四月一〇日で終了ということであつた。四月一一日は三月一五日の宿直を拒否した原告藤井が再び宿直の割当を受けていた。しかし、原告藤井は当日の宿直を最初は受命しなかつたが業務命令書が手交されるや所定の勤務に服し、その後における西条営林署の宿日直は正常に復した。

(一四) むすび

以上の次第で、西条営林署の宿日直は、職務上の指示命令に対する履行として実施されてきたもので、本件闘争はかような宿日直制度を背景として原告らが分会執行部役員として全林野が企画した昭和三九年春闘の体制作りの一環として、右春闘計画とは別個に同分会において独目に企画し、指導し、一定期間だけ分会所属組合員に実施せしめ、かつ、原告藤井、同河村は自ら各割当にかかる宿直を拒否し、西条営林署の正常な業務の運営をいちじるしく阻害したものである。したがつて、本件処分事由に原告ら主張のような誤認はない。

4 公労法第一七条第一項の合憲性について

(一) 公労法第一七条第一項の規定が憲法第二八条に違反するものでないことは最高裁判所全逓中郵判決が判示するとおりである。もつとも、右判決は公共企業体等の職員のうち、郵便事業に従事する職員について判示されたものであるが、右判決は公労法の対象事業である三公社五現業の業務全般について「多かれ、少かれ、また、直接と間接の相違はあつても等しく国民生活全体の利益と密接な関連を有する」ものであり、「その業務の停廃が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあることは疑をいれない」と判断している点で、右判決は郵便事業ばかりでなく、その他の公共企業体等の業務に従事する職員についても公労法第一七条第一項の適用があり、これを合憲としたものと解すべきである。しかも、右判決に示された労働基本権の制限に関する四原則はすべての公共企業体等に妥当するもので、右判決に示された合憲性の判断はひとり郵便業務のみに限定されるものではない。なお、右判決は「他の業務はさておき」と述べて、とくに郵便事業の公共性について言及しているが、既述のとおり、公共性は郵便業務のみに限定されるものではないから、右叙述は当該事件が郵政職員に関するものであるところから念のために付加されたものにすぎない。原告らは、公労法第一七条第一項は各公共企業体間の業務の性質内容などに存する差異を無視し、一律かつ全面的に公共企業体等の争議行為を禁止している点で憲法第二八条に違反すると主張する。周知のように最高裁判所のいわゆる都教組判決は、地公法第三七条、第六一条第四号の規定に関し、地公法のこれらの規定が地方公務員の職務の性質、内容を具体的に検討してその間に存する差異を顧みることなく、その公共性を理由として一律に規制しようとする態度には問題がないではないとか、これらの規定が文字どおり、すべての地方公務員の一切の争議行為を禁止する趣旨であるとするならば違憲の疑いを免れないであろうと述べており、最高裁判所のいわゆる全司法判決(昭和四四年四月二日判決)も国公法第九八条第五項(現行法同条第二項)および同法第一一〇条第一七号について同様に判示している。しかしながら、三公社五現業の業務と異なり、国や地方公共団体の業務は多種多様で、それを処理する公務員の職務の性質、内容も広範多岐にわたつていることは各省設置法に列挙されている各省所管業務や地方自治法第二条、第二八一条にそれぞれ列挙されている業務をみれば明白である。したがつて、前記最高裁判所都教組判決および全司法判決がこれらの点に着目し、公務員であるという身分上の理由をもつて担当職務の性質、内容を具体的に検討し、その間に存する差異を顧みることなくその争議行為を一律に規制しようとする態度には問題がないわけではないと判示したのも十分首肯できる。しかし、公労法の適用を受ける企業は同法掲記の三公社五現業に限定され、また、これら公共企業体等の業務も公労法によつて具体的に特定されている点で、前記のような国家公務員や地方公務員の担当職務とは異なつている。全逓中郵判決はこのような公共企業体等の職務の公共性を検討し、これを前提として公労法第一七条第一項は憲法第二八条に違反するものではないと判示したのである。

以上の次第で、公労法第一七条第一項はすべての公共企業体等の職員の争議行為を禁止したもので、なんら憲法第二八条に違反するものではない。

(二) 国有林野事業に従事する職員等の争議行為は公労法第一七条第一項によつて禁止されているものである。

以下、国有林野事業の業務の概要を述べることによつて国有林野事業が国民生活全体の利益と密接に関連する公共性の強い業務である所以を明らかにする。

(1) 国有林野事業の国民生活における機能

国有林野事業はわが国における林業の中核をなし国民生活全体の利益と密接な関連を有する国有林野の管理経営およびその付帯事業を行うものである。そして国有林野の管理経営は国土の保全、水源のかん養、国民の保健、休養、自然の保護等国有林野の有する公益的機能を極力確保し、また、国有林野の所在する地域における農林業構造の改善、その他産業の振興、地域住民の福祉向上のための国有林野の活用、未開発森林の開発促進によつて、林業総生産力の増大に努め国民経済にとつて重要な林産物の持続的供給源としてその需給および価格の安定に貢献し、もつて公共の福祉を増進することを目的として合理的、かつ、能率的に運営されることが要請されている。このような管理経営目的のもとで国有林野事業が国民生活上果している機能を集約すると次のとおりである。

(イ) 国土保全および水源かん養等の役割

森林は水源のかん養、土砂流出、崩壊の防止、風、水害、潮害、干害、雪害の防止等の国土保全機能を有し、種々の災害の発生を未然に防止している。国有林野はわが国林野面積の約三分の一を占め、全国土に分布しているが、その多くはせき梁山脈の奥地に位置し、重要河川の上流地帯にあるため土砂流出が、崩壊防止および水源かん養等種々の目的で保安林に指定されている森林が多く、それが国土保全、水源かん養等に果している役割はきわめて重要である。さらに、国有林野事業は保安林による国土保全機能の一層の充実を図るため国が一括管理することを相当とする民有林を買入れ、これを国有林野として管理経営し、保安林の整備、強化に努めていて、その経営は経済的な森林経営のみを目的とするのとは著るしく異なるものである。また、国土保全上極めて重要な治山事業についていえば、国有林野事業は国有林野の治山事業ばかりではなく、民有林についても民有林直轄事業として治山事業を実施している。国有林野内の治山事業の大半は保安林、または保安林予定地について実施されている点で、保安林の管理経営の主体は単に境界の維持保全、標識の設置などのような消極的な業務にとどまるものではなく、治山事業の施行にある。そして、国有林野内の保安林は主要河川の上流水源地帯にある点で、その適切な管理、運営は下流流域の災害予防に密接に関連しているのである。治山、治水は国政の基本であつて、適切な施策なくして豊かな国民生活は成立しない。以上のとおり国有林野事業における治山事業は国土保全上きわめて重要な役割を果し、国民生活の向上、発展のために重要な寄与をしているもので、国民生活全体の利益と密接な関連性を有するものである。

なお、原告らは治山事業の一部が民間業者の請負によつて行われていることから、右業務の公共性を疑問視し、国有林野事業の職員等の争議行為を禁止することは不当であると主張するが、治山事業等の工事自体は請負で実施されるとしても、右事業に関する調査、計画、設計、監督、検査等の基本的な業務は国有林野事業の職員が担当しているのであるから、これら職員の争議行為は請負業者の工事施行に直接影響を与え、右事業の停廃をもたらすものである。右のことは治山事業に限定されるものではなく、林道事業を始めとしてその他の事業部門についても同様に妥当するものである。

(ロ) 国民の保健、休養等に対する役割

広大な地域を占める国有林野は清浄な大気と緑を提供する国民の保健、休養の場としてこれを適正に維持、管理することは近時における都市生活環境の悪化、産業公害の深刻化が目立つなかで国民的な要請である。この要請に応えるために国有林野事業は自然公園、風致保安林等の保護、管理に努めるとともに、さらに自然休養林、スキー場、キヤンプ場等のレクリエーシヨン施設を設け、国民の健康で文化的な生活確保に重要な使命を果している。

(ハ) 林産物の需給と価格安定の役割

国有林野の有する総蓄積量はわが国森林総蓄積量の約二分の一を占めており、国民生活に密接な関連を有する林産物の供給源となつている。国有林野事業はわが国木材生産量の約三〇パーセントを毎年計画的かつ持続的に国内市場へ供給し、木材需給の安定に寄与している。近時、外材の大量輸入が行われ、国内需要の約五〇パーセント余は外材に依存しているが、需給の安定を外材輸入に依存することは国民経済上不適当であり、わが国の林産物の需給に関する長期計画においても国内の森林生産力の増強に重点をおき将来高度の自給率を保持することが計画されている。このような需給事情のもとにおいて国有林野に対してはさらに奥地未開発林の開発や人工造林の積極的拡大によつて森林資源の一層の充実が要請され、国有林野事業はその旨努力を傾注している。これを要するに、国有林野事業は国民生活に欠くことのできない林産物の持続的供給源として木材の需給および価格の安定にきわめて重大な役割を果たしているのであつて、国民生活に対する役割は経営規模もまちまちな森林所有者が任意に木材を供給する民有林業のとうてい及び得ないところである。

(ニ) 農山村民の福祉向上の役割

国有林野の所在する地域は概ね農山村地域である。したがつて、国有林野事業は単に事業の適切な管理、経営にとどまらず、所在地域の農林業構造の改善、農山村経済の助成という国家的見地から共用林野、部分林の設定、貸付、使用等の種々の施策を推進し地域住民の福祉の向上に寄与している。それ故、国有林野事業は地元農山村民の福祉の向上を通じ、国民生活全体の利益と密接な関連性を有しているのである。

(2) 以上述べたように、国有林野事業は公共性の要請のもとに、一般行政が実施すべきものを含めてきわめて広範囲な事業課題を負うものであつて国有林野事業の国民生活における機能と役割は国の施策の一環として公共性の強いもので、国民全体の信託にもとづき国民全体の福祉を増進することを目的として管理経営されているのである。

原告らは、国有林野事業は本質的に民有林野事業と異ならないものであると主張するが、国有林野事業は既述のとおり、国民全体の意思に基づき公共の福祉を増進することを目的として管理経営されているものであつて、その目的と性格は山林所有者の経済的利益の追求を目的とする一般の林業とは本質的に異なるものである。

(三) 国有林野事業の職員らの争議行為を禁止する点になんらの不合理はない。

国有林野事業は森林の有する多目的な効用を発揮させ、かつ、既述のような公共的役割を果すために諸種の経営に諸計画を策定し、右計画に依拠して事業を円滑に遂行するが、右計画は長期にわたる総合的なものである反面、末端事業の経営に関するものまで包含するきわめて詳細かつ細部にわたるものである。しかも、右計画は相互に有機的に関連するので、争議行為による右計画の一部の停廃は計画全体に波及し全体的な事業の遂行に支障を与え、ひいては国民生活全体の利益に重大な支障をおよぼすおそれのあるものである。しかも、争議行為も一般民間企業のそれと異なり、長期化し、業務阻害の程度、国民生活への影響も深刻なものとなる可能性が多分にあるうえ、一度争議行為による業務の停廃が生じると、それによる障害は、たとえその停廃が一時的なものであるとしても、国有林野事業の業務が自然的、季節的、天候的制約に服し、災害復旧等の即時性が要求される点で事後における人為的処理をもつてしてはとうてい回復することのできないものである。すなわち、国有林野事業においては争議行為によつて生じた業務遅滞、阻害を回復することは容易でなく、右障害は国土の荒廃となつて徐々に進行し、国民生活全体の利益を害するおそれがあるのである。

以上の次第で、国有林野事業においてはその業務の特殊性などから、規模の如何を問わず一切の争議行為を禁止する合理的理由がある。

5 本件闘争の違法性について

(一) 原告らは、西条営林署における宿日直はその必要性がなく、本件闘争は同営林署の宿日直業務になんら支障を与えた事実はないし、ひいては国民生活全体の利益を害したものでもないと主張する。しかしながら、既述のとおり、国有林野事業に争議行為を禁止すべき強度の公共性が認められる以上、争議行為の対象とされた職務の具体的内容について問題とするまでもなく、その争議行為は全体として公労法第一七条第一項に該当する違法の争議行為というべきである。けだし、国有林野事業に従事する職員の職務はその具体的内容について問題とするまでもなく、相互に密接不可分の関係にあつて、有機的に関連し、一体となつて公共性の強い国有林野事業の遂行に寄与しているもので、これを個々的職務まで細分して検討することは公労法第一七条の趣旨を没却する結果となるからである。

(二) かりにそうでないとしても、宿日直は国有林野事業の円滑な運営にとつて重要な役割を有するとともに国民の生活および財産の安全確保に重大な関係を有し、その業務の停廃は国民生活全体の利益に重大な障害をもたらすおそれのあるものである。西条営林署は重要な国有財産等を保管、管理し、国民生活にとつて重要な役割を果たしている公共性の強い業務を所掌している以上宿日直をする必要があつたことはいうまでもない。たしかに、同営林署構内には管理者の一部が居住しているが、この事実は宿日直の必要性を左右するものではない。このような宿日直の必要性については全林野も認めてきたところであつて、全林野は宿日直手当の増額要求において国有林野事業は現業官庁として一般官庁の宿日直と異なり、宿日直員の責任も異質なものがあると述べているのである。このように、宿日直は国有林野事業上不可欠の制度で、とくに右業務が争議行為により停廃した場合に山林火災が発生し、その連絡業務がとれなくなつたとすれば、それが国有林野ばかりではなく、地域住民の生活、財産の安全に与える脅威たるや計りしれないものがある。

原告らは、また、国有林野事業の宿日直制度が昭和四〇年四月以降、専任制に移行し、専任者が配置されていない営林署があつたり、また、専任者が長期欠勤したりした場合に、これに代る宿日直が行われていないことを理由として宿日直の必要性はなかつた旨主張するけれども、専任制によるとはいえ、宿日直制度が必要である点については全林野も専任者の労働条件について当局との間に労働協約を締結して事実上その必要性を認めているし、また、専任者が欠員である場合等の事態に対しては管理者や用務員が右職務を行い、とくに、必要がある場合には臨時に職員に対し宿日直を命じているのである。したがつて、宿日直が専任制に移行した事実はなんら宿日直の必要性を否定する理由となるものではない。

(三) 本件闘争は西条営林署本署に勤務する全組合員が共同して昭和三九年三月一五日から四月一一日まで約一カ月間近くにわたり宿日直命令を拒否したもので、これによつて公共性の高い営林署の正常な業務の運営を著るしく阻害し、もつて、国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な支障をもたらすおそれのあるものであつた。すなわち、本件闘争は国有林野事業上重要な業務である宿日直を長期間にわたつて拒否したもので、右闘争期間中幸い火災、盗伐、盗難その他緊急事態は発生しなかつたけれども、万一、そのような事態が発生すれば、そのおよぼす影響は誠に重大であるからその予防対策を等閑に付することはできない。しかるに、西条分会は本件闘争を実施するにあたつてなんらの予防対策を講ぜず、管理者側が宿日直勤務に従事することを期待して本件闘争を実施したものである。その結果、闘争期間中に実に二七回にわたつて六名の管理者が宿日直勤務に就かざるを得なかつた。これら、管理者は自らの職務を遂行しなければならなかつたのであるから、非常事態が発生した場合のことを考えると、本件闘争は国民生活全体の利益に重大な障害をもたらすおそれがあつたことは明白である。

(四) 本件闘争は昭和三九年春闘に際し、全林野を構成員とする公労協が企画した公労協全体の統一半日ストライキの体制作りとして西条分会が独自に企画実施したものである。したがつて、本件闘争は右半日ストライキに直接関連するものであり、しかも、右半日ストライキは公共企業体等の機能を全く麻痺させる違法なものであることは明白である以上、本件闘争も同じように違法というべきである。けだし、争議行為は準備体制の確立から実施に至るまで各種の段階を経るものであるが、これら各行為は相互に関連し一体として評価されるべきものであるからである。

6 本件処分の適法性について

公労法第一七条第一項違反の争議行為に対する制裁は同法第一八条の解雇に限定されるものではなく、国公法上の懲戒処分の対象ともなり得るものである。このことは公労法第四〇条が国公法第八二条、第九六条第一項、第九八条第一項の各規定の適用を除外していないことからも明らかである。すなわち、公労法第一七条第一項違反の争議行為が国公法第八二条の各懲戒事由に該当する限り懲戒の対象となることを認めているのである。原告らは、争議行為の団体的行為性を理由として争議行為に対しては懲戒責任を問うことは許されないと主張するが、争議行為は労働組合の行為であると同時に個々の組合員の行為であるから、違法不当な争議行為に対しては労働組合はもとより、個々の組合員も責任を免れないものである。また、原告らは公労法第一七条第一項は国民生活全体の利益の確保という見地から争議行為を違法とするもので、国の利益を保護し、公務員秩序の維持を目的とするものではないと主張するが、国民生活全体の利益の確保と公務の正常な運営の維持、確保は密接に関連するものであつて、公共企業体等の業務の正常な運営の確保はとりもなおさず、国民生活全体の利益の確保に通ずるものである。公労法第一七条第一項はかような趣旨において公共企業体等の職員らの争議行為を禁止しているのである。したがつて、公労法第一七条第一項違反の争議行為に対しては国公法第八二条の懲戒処分が課せられるのは当然である。

また、本件処分が不当労働行為に該当するとの原告らの主張はすべて事実に反しこれを否認する。

以上の次第で、本件処分に原告ら主張のような違法はなく原告らの請求は棄却されるべきである。

第三証拠関係<省略>

理由

第一  原告らの任命権者である被告が昭和三九年五月九日付をもつて大阪営林局西条営林署に勤務する農林技官原告藤井忠男を一カ月間俸給の月額の二〇分の一を減ずる旨の減給処分に、同農林技官原告高山武房、同農林事務官原告河村睦幸をそれぞれに戒告処分に、各処したこと、右処分事由は、原告らが西条分会執行部役員として昭和三九年三月一五日から同年四月一一日までの間、大阪営林局西条営林署において同営林署に勤務する分会所属組合員が、同営林署長の発した宿直および日直の命令を拒否し、宿日直勤務に服さないとの、いわゆる宿日直勤務命令拒否闘争を企画し、組合員をして、宿日直勤務を拒否させて右計画を実施させ、また、原告藤井忠男は昭和三九年三月一五日、同河村睦幸は同年三月二九日の各宿直勤務を自ら拒否し、もつて、西条営林署における正常な業務の運営を阻害したものであつて、原告らの所為は公労法第一七条第一項、国公法第九六条第一項、第九八条第一項に各違反し国公法第八二条各号に該当するというものであること、原告らは本件処分を不服として昭和三九年七月七日人事院に対し審査請求したが、人事院は三か月を経過するもこれに対し裁決をしていないこと、

以上の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

第二  原告らの請求の当否について

一  国有林野事業における宿日直制度の沿革

成立に争いのない乙第二、第六、第七、第八、第一七、第一八、第六六号証、証人森田隆信の証言、弁論の全趣旨を総合すると次の事実を認めることができ、右認定に一部反する証人木村武の証言は措信できない。

大阪営林局長は昭和三六年四月四日国有財産法(昭和二三年六月三〇日法律第七三号)第九条、農林省所管国有財産取扱規則(昭和三四年六月九日農林省訓令第二一号)第二条第四項をそれぞれ根拠規定として営林署国有財産分掌事務取扱準則を定めたが、右準則第一条は「営林署長はこの準則の定めるところにより営林局所属の国有財産の管理及び処分に関する事務を処理しなければならない」と規定し、また、同準則第三条は「営林署長はその管理する国有財産の現状を常時は握し、その管理及び処分を適正に行わなければならない」と定めている。したがつて、営林署長は右規定により国有財産である庁舎等の施設、設備、文書等の管理、保全のため、所属の職員(一般職国家公務員)に対し、右職務を分掌させることができるものというべきであつて、宿日直は右職務の一端を分掌するものである。ところで営林署における宿日直制度の法的根拠については、国有林野事業が昭和二八年一月一日から公労法適用事業となり、その職員(一般職国家公務員)に対し労基法の全部、労組法の一部が適用されることとなつた関係上、その前後を通じ次のような変遷があつた。すなわち、公労法適用(昭和二八年一月一日)前の営林署職員は他の一般職国家公務員と同様に規律されていたところ右一般職国家公務員の宿日直は新憲法施行の前後を通じ大正一一年七月四日施行の閣令第六号「官庁執務時間並休暇ニ関スル件」第三項の「事務ノ状況ニ依リ必要アルトキハ執務時間外ト雖執務スベキモノトス」との規定に依拠し、所属庁の長の命令によりこれを実施すべきものとされていた(右閣令第六号は、新憲法施行後も「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令等の規定に関する法律」や、「国家公務員法の規定が適用されるまでの官吏の任免等に関する法律」によつて国有林野事業に公労法が適用されるまで、その効力を保有していた)一方、宿日直の手当については、昭和二二年労基法の施行にともない、「労働基準法等の施行に伴ふ政府職員に係る給与の応急措置に関する法律」(昭和二二年法律第一六七号)にもとづき大蔵大臣が「昭和二二年法律第百六十七号による給与支給準則」を制定し同準則で始めて国家公務員に対し所定勤務時間外の勤務については超過勤務手当を支払うこととなり、そのうちの一つとして定額の宿日直手当が定められ、しかも「超過勤務は命令(超過勤務命令簿によつて命令すること)をもつてする以外の勤務は一切之を認めぬこと」とし、右給与支給準則第六条(日直手当)および第七条(宿直手当)によると、それぞれ「職員がその所轄庁の長の命令により」勤務した場合に、所定の手当を支給すると定められた。以上のように宿日直勤務は終戦後も前記のような根拠に基づき命令し、その勤務に対し所定の手当を支払うこととし林野庁の職員を含む国家公務員全体がこの取扱により実施されて来た。そして昭和二三年六月三〇日に、大阪営林局長は以上のような国家公務員全般の取扱を背景として、各管内営林署長に対し「宿直及日直設置について」との通牒を発し、署長が必要と認めるときは宿日直を制度として採用し、職員の輪番制による宿日直勤務について勤務命令簿を備えて、これを整備するとともに労基法ならびに前記昭和二二年法律第百六十七号による給与支給準則等関係法規に違反のないようにと指示し、管内各営林署において順次輪番制の宿日直を採用し、右取扱は昭和二八年一月一日林野庁の職員に対し公労法が適用されるにいたるまで続いていた。しかし、公労法適用後は前叙のとおり営林署職員の労働条件は全面的に労基法で規律されることとなつたので、従前と異なり、労使間の労働協約あるいは労基法第八九条の就業規則によらない限り、拠るべき明示の規定を欠くこととなつた。そこで、林野庁は昭和二八年一月一日公労法適用と同時に全林野の前身である全林野職員労働組合と労働条件の暫定的取扱に関する協定を締結し、労使間において団体交渉または協議により、従前の例による取扱いと異る決定をしない限り「職員の労働条件については従前適用されていた国公法その他法律及びこれに基づく政令、規則、指令、細則、訓令、通牒等の例により取り扱う」と定めて従前前記閣令第六号その他の諸法令に基づいて実施されてきた宿日直勤務およびこれに対する手当の支給をそのまま公労法適用後も実施存続することを労使の合意により定めた。その後前記暫定協定を具体化し労働条件の全国的統一基準を明らかにする趣旨で林野庁は昭和三〇年四月一日職員就業規則を制定し、その第三六条第一項で宿日直勤務についてこれを確認する趣旨で「職員は火災、盗難等の予防、急を要する文書、電信又は電話の接受等のため必要がある場合には所属の長の定めるところにより通常の勤務の外に日直又は宿直を命ぜられることがある」と規定し、この規定は本件闘争が実施された昭和三九年三月当時もその効力を保有していた。

以上の次第で、国有林野事業における宿日直勤務は所属庁の長の業務上の命令によるものとされ、職員の勤務は右命令に対する履行として実施されていたことが明らかである(右所属長の宿日直勤務命令により所属職員が宿日直義務を負うか否かの点の判断は後記四にゆずる)。原告らは、西条営林署における宿日直勤務運用の実態から、職員の合意を前提としてサービス労働として実施されていたと主張するが、右主張の失当であることは後記二で判断するとおりである。

二  西条営林署における宿日直制度と運用の実態

成立に争いのない甲第一号証の一、二、四、六、七、九、一一、一三、一六、一八、第一二号証の一ないし四第一五号、乙第四、第五、第六、第七、第一五号証、第四九号証の一、二、証人板倉治人、同溝手昇、同安東功の各証言によつて、それぞれ原告ら主張の作成者の作成文書と認められる甲第一号証の五、八、一〇、一二、一四、一五、一七ならびに証人森田隆信、同藤井佐太郎、同佐々木寅雄、同二木通雄、同板倉治人(一部)、同溝手昇(一部)、同安東功(一部)、同村上栄一の各証言および弁論の全趣旨を総合すると次の事実を認めることができる。

昭和二三年六月三〇日大阪営林局長が管内各営林署長に対し前記「宿直及日直設置について」と題する通牒を発し、各営林署で宿日直制度を設置する場合はその必要な理由を詳具し、上申の上許可を受けるとともにその実施にあたつては宿日直の「勤務命令簿」を備えるなど勤務体制を整備し、かつ、労基法、前示昭和二二年法律第百六十七号、給与支給準則の実施通牒等関係法規に違反することのないように指示し、右指示に基づき、西条営林署はそのころ、主として戦後の世情不安定による盗難等事故防止の目的で宿日直制度を採用したが、その後西条営林署の宿日直は一時中断し、昭和二八年に職員による輪番制宿日直として復活したが、これは昭和二四年以来超過勤務手当の一部に組込まれ低額に据置かれていた宿日直手当が一挙に金三六〇円に増額され、職員の大部分が右手当の受給を希望したこと等の事情もあつて、これまで宿日直制度を設けていなかつた各営林署もこの時期に挙つて右制度を採用するに至つた。西条営林署はその後宿日直勤務命令簿を整備し、昭和三一年一一月には前記就業規則第三六条二項に基づき労基則第二三条による広島労働基準監督署長の許可を受けた(その後、宿日直勤務時間の一部変更にともない昭和三八年八月二一日許可を受け直した)うえ、昭和三六年一月六日には林野庁の指導に基づいて宿日直勤務の内容、これに従事する職員の範囲、勤務についての注意事項等を定めた西条営林署宿日直規程を作成し(その後、勤務時間に関する規定が一部変更された)、これを同営林署備付の宿日直日誌の裏表紙に貼付して職員に周知させていた。そして右就業規則、宿日直規程によれば西条営林署の宿日直勤務は署長、管理官、自動車運転手、宿直については女子職員その他健康状態等のため勤務に適しないと認められた特定の職員を除く、同営林署勤務の定員内職員が毎月作成される宿日直勤務割当表に基づいて輪番で勤務に従事することとされていた。そして、右勤務割当表は経理課長が毎月の五日ないし七日前位に一定の課順で職員給与簿記載の順序に基づいてこれを作成し、署長の決裁を受けたうえ庁舎通用口付近の庁内掲示板に掲示するとともに昭和三六年一〇月ごろからは庁内各課の回覧に付して職員全般に知らせていた。勤務割当を受けた職員が所定の勤務に服することができないときは速やかにその理由を経理課長に具申し、承認を受けるべきものとされ、また、職員の宿日直勤務は前認定のとおり宿日直勤務命令に基づいて服務すべきものとされていた。そして右命令伝達は経理課長もしくは庶務課長がその都度宿日直勤務命令簿を勤務割当者に提示してこれをなすことを原則としていた。すなわち、経理課長もしくは庶務課長は各職員別に作成された備付の宿日直勤務命令簿中当該割当者の勤務すべき「日付」、「命令時間」、「勤務内容」欄にそれぞれ所要事項を記入した後、命令権者より「監督者印」欄に捺印を受け、これを勤務割当者に提示して命令伝達を行うが、その際、勤務割当者より受命の証として「従業者印」欄に捺印を受けていた。

宿日直の勤務時間は改正後の西条営林署宿日直規程によると、宿直にあつては午後五時から翌日の午前八時一五分まで、日直については、日曜日にあつては午前八時一五分から午後五時まで、土曜日にあつては午後〇時一五分から午後五時までとされ、右勤務時間中において宿日直員は次の事項を処理すべきものとされていた。すなわち、(1)庁中取締に関すること、(2)電話および郵便物の接受に関すること、(3)庁舎内外の巡視、(4)火気取締、(5)庁舎その他の鍵の保管、(6)その他緊急に処理することを要する事項(主として国有林野、庁舎等に非常災害が発生した場合の連絡、通報を指称する)であり、このほか宿日直員は勤務終了後、宿日直中に生じた事項を記載した宿日直日誌および鍵箱を経理課長に提出して点検を受け、さらに、宿日直中接受した郵便物等を郵便物接受簿に記載して庶務課に引き継ぎ署長の点検を受けるものとされた。

しかしながら、西条営林署の宿日直は必ずしも右のように厳格に実施されず右制度を前提としながらも職員の意向をしん酌し、かなり弾力的に運用されていた。すなわち、通常の勤務時間についてこれをみても、宿直勤務に従事した翌日は出勤扱いの半休とされ、また、宿日直の準備時間として(勤務時間の一部)を食事等のため費やすことが許されていたし、交替についても、本来ならばあらかじめ経理課長にその理由を具申して承認を受けるべきものとされていたけれども、屡々、職員相互の話合で交替が行われ、また、交替理由を深く詮索されることは稀れで容易に交替が承認されていたし、交替要員も管理者側で求めることも屡々あつて、時には交替者が勤務割当者の名義のまま勤務に従事し、宿日直日誌もその名義で記載したこともないとはいえなかつた。そして以上のような勤務割当者の交替は宿日直手当が長年据置かれ食費すら十分賄えなくなつて宿日直勤務につくことを好まないとする風潮が醸成されるにつれて増々頻繁となり、とかくその交替は営林署構内の独身寮に居住する寮生など一部職員に集中し勝ちであつた。また、宿日直員の職務内容も宿日直制度採用当初暫くの間は巡回時計や拍子木を携帯して夜中まで定時的に庁舎内外の巡視、巡回を実施していたが、世情が安定するにつれてそれも自然に廃止され、以後宿日直員は適時庁舎内外をわずかに一廻して異常の有無を確認していたにすぎず、その余の勤務時間の大部分は宿日直室に在つて時折配送されてくる郵便物や、電信、電話の接受にあたつていたが、それも接受した郵便物等の数量を郵便物接受簿に記載するにすぎなかつたところから、宿日直員はもつぱら宿直室で読書などに過ごすのを通例としていた。また、宿日直勤務命令簿の取扱いについても、命令権者の捺印が時には勤務割当者の受命印の押捺後になされるという場合もないではなかつた。

以上の事実が認められ、右認定に反する証人板倉治人、同溝手昇、同安東功の各証言の一部はいずれも信用することができない。

右事実によると、西条営林署の宿日直勤務運用の実態は職員の意向を十分尊重して、勤務割当者の交替がかなり自由に容認され、輪番制の建前は厳格に貫かれていなかつたことが明らかであるが、これは、前認定のように宿日直勤務を好まないとする風潮に即応しながら制度を円滑に運用するためにおのずから生じた事態に外ならないものとみるのが相当であり、右事実があるからといつて原告ら主張のように同営林署の宿日直勤務がその都度職員の合意を得ることを前提として実施されていたものと認むべきではなく、また原告ら主張のような職員の承諾がなければ宿日直を命じないという慣行の存在を認めるに足りる証拠はない。また、前認定のように宿日直勤務命令簿の命令権者の捺印が時に割当者の受命印の押捺後になされたことがあつたとしても、宿日直命令自体は必らず経理課長もしくは庶務課長から勤務割当者に口頭で伝達されていたことが前記認定に供した各証拠に照らし明らかであり、また本来右命令自体は必らずしも所定の要式で伝達されなければならない性質のものとはいえないから、前記宿日直勤務命令簿の取扱もこれをもつて宿日直勤務が職員の合意のもとに行われていたという原告らの主張を首肯させるに足りない。

三  本件闘争のいきさつと実態

1  宿日直制度に対する全林野、大阪地本の態度

成立に争いのない甲第七、第一四号証、乙第二六ないし第三〇号証、弁論の全趣旨によつてそれぞれ成立を認める甲第六号証の一ないし一七、第一三号証の一ないし一〇、乙第六七号証の一ないし二三、公文書であることにより成立を認める乙第四三号証の一ないし三、証人森田隆信、同田中政一、同弘中保之、同木村武の各証言を総合すると次の事実を認めることができる。

昭和二八年に大阪営林局管内各営林署で職員による輪番制勤務として採用された宿日直はその後宿日直手当が長年据置かれ、勤務中の食費さえ賄ふに足らなくなるに及び、昭和三七年ごろから右手当を含めた宿日直の労働条件全般をめぐり管内各営林署職員の間で不満が高まり、とくに、宿直明けの休養タイムが容認されていなかつた姫路、山口等の営林署で昭和三七年から昭和三八年にかけて宿日直条件の改善を要求して宿日直勤務拒否闘争が展開された。このような各分会の動きに呼応し、全林野、大阪地本も宿日直問題に積極的に取り組むようになり、とくに、大阪地本は昭和三七年夏ごろから、宿日直勤務は法的根拠を欠きこれに服する義務がなく、余分な労働であるとの見解のもとに、かかる余分な労働はやめようとの日常運動を展開することを提唱して傘下の分会を指導し、各分会もそのころから宿日直に関する労働条件改善のための団体交渉等をより一層強化するようになつた。全林野もかようなすう勢に基づき昭和三八年春闘においては宿日直手当増額等の諸要求を打ち出すなかで、宿日直勤務を義務とする法的根拠はなく、強制されるべき性質のものではないとの見解をとり、宿日直勤務拒否を闘争戦術として採択し、分会それぞれの宿日直条件を点検するとともに、昭和三八年三月一三日以降の三日間全国的に宿日直勤務拒否闘争を展開するように指令し、名古屋分会等一部の分会では右指令に基づいて宿日直拒否闘争を展開した。西条分会も同年四月下旬から同年五月上旬にかけて同趣旨の闘争を展開したが、このときは当局の業務命令が発せられた段階で組合員は勤務に服した。全林野は右春闘終了後、闘争の成果をふまえ、今後の宿日直問題に取り組む態度を明確にしたが、それによると宿日直はあくまで法的に義務たる性質を有しないもので、今後、各分会は拒否行動を画一的に進めるという方法でなく分会それぞれの日常の職場活動の中で意識の昂揚を図り、これを背景とした団体交渉をより一層充実強化するなどして最終的に宿日直制度の廃止を達成して行くというものであつた。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

2  昭和三九年春闘と宿日直問題

それぞれに成立に争いのない乙第一〇ないし第一四号証、第三一ないし第三五号証、証人森田隆信、同田中政一、同山中澄雄、同弘中保之の各証言を総合すると次の事実を認めることができる。

全林野中央委員会は昭和三八年一一月から昭和三九年一月にかけて昭和三九年春闘方針とそれに基づく戦術展開を審議採択し、昭和三九年春闘は大巾賃上げ、差別・アンバラ(定員内職員に対する賃金、労働時間の差別、定員外職員に対する賃金の不均衡是正)撤廃、林政民主化を三本の柱として総評、公労協の一員として統一闘争を推進することとし、逐次、大衆行動、順法闘争を展開しながら昭和三九年四月上、中旬には賃上げに関する公労委の調停案提示の動きのなかで全国的に統一半日ストライキを実施することとした。そして今季闘争では右春闘の体制作りのための具体的な大衆行動に関する戦術選択については前年度までと異なり中央から統一指令を出さず各下部機関がそれぞれ独自に創意工夫して組合員全体で討議し、選択実施すべきものとされた。大阪地本は全林野の右春闘方針をうけ、昭和三九年二月四日の北陸支部を最初として地本管内で全林野中央本部と一体となつて統一半日ストライキ体制確立のためのブロツク別幹部、活動家オルグを行うこととした。西条分会が所属する西中国支部協議会は二月一二、一三日広島営林署宮島保養所で開催された。右協議会には西条分会より原告藤井忠男(分会書記長)、山中澄雄(分会書記次長)、只政伸男(分会執行委員)が出席し、席上、全林野中央執行委員神原二郎、大阪地本闘争委員弘中保之らは昭和三九年春闘の体制作りのための順法闘争、大衆行動の実施方法を指導したが、その指導は上部からの統一的、画一的な指令によるものではなく、下部機関が独自で創意工夫し十分に討議を重ねて情勢に適応した効果ある戦術を選択実施するというものであつて、とくに宿日直拒否闘争については全林野、大阪地本が選択した順法闘争や大衆行動の具体的計画の中には明示されておらなかつた。そこで、原告藤井忠男は右協議会でとくに発言し、今季闘争で体制作りのための闘争として宿日直をしない運動を展開してよいかと質問したところ、大阪地本の弘中保之はこれに答え、宿日直問題は戦術として採択されていないが、この問題は昭和三七年以来日常普段に展開すべき闘争として各分会において推進してきたのであるから、今季春闘で決められた枠に捉らわれずに積極的に実施すべきであるとの趣旨を述べた。しかし、どのように宿日直拒否闘争を進めるべきであるとか、当局が業務命令を発した場合にどのように対処すべきかなどの具体的闘争戦術についてはその席上なんら討議されなかつた。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

3  宿日直問題に対する西条分会の動き

いずれも成立に争いのない乙第一四、第三七、第四一(一部)、第四二(一部)、第四五号証、証人二木通雄、同山中澄雄(一部)、同大畠稔浩(一部)、同三宅一之、同中川浩人の各証言、原告藤井忠男(一部)、同高山武房(一部)各本人尋問の結果を総合すると、次の事実を認めることができる。

昭和三九年春闘に対する西条分会執行委員会は昭和三九年二月一五日原告らを含む執行委員一一名全員が出席して西条営林署みやま寮で開催された。その席上西中国支部協議会の経過報告に続いて今季春闘を全林野の闘争方針どおり進めることを確認し、あわせて同分会独自の闘争計画を樹立することとして、まず執行委員各自の分担をきめ(原告藤井はオルグ計画、原告高山は職場大会の司会、原告河村は文書戦を各担当)、かつ、これまで他分会より遅れ沈滞していた宿日直をしない運動についても今季春闘中に分会員に対しより一層積極的に喚起強調する必要がある旨確認した。しかし、具体的な戦術決定は同日設置された闘争委員会の審議に付託された。闘争委員会は西条分会の闘争計画を決定し、その実施にあたる戦術的指導機関として原告らを含めた執行委員一一名、班委員九名、青年婦人部委員四名の合計二四名から構成されるものであるが、その第一回闘争委員会は同年二月二三日西条営林署会議室で原告らを含めた闘争委員一〇数名が出席して開催された(なお、西条分会は西条営林署本署に勤務する組合員で構成する署内班と、本郷班、野路班で構成されていた)。その席上春闘の体制作りとしてのオルグ、リボン闘争など具体的闘争戦術などの細目を決定しこれを三段階に区分して実施することとした。すなわち、二月二五日ごろを第一段階、三月中旬を第二段階、三月一八日ごろを第三段階として実施するものであるが、その際あわせてこれまで日常普段に展開すべき闘争として位置付けられてきた宿日直をしない運動を春闘体制確立のための闘争の一環として右闘争期間中に積極的に実施することを決めた。しかし、宿日直問題は右勤務を実施する西条営林署本署に勤務する組合員で構成する署内班のみに関係する事項で、担当区事務所等に勤務する組合員(本郷班、野路班)には関係ないので、その具体的闘争方法は西条営林署署内班職場集会の討議で改めて決定することとされた。署内班職場集会は昭和三九年三月四日、三月九日の二日間にわたつて西条営林署会議室で原告高山武房が議長となつて開かれ、執行部より提案された宿日直闘争の実施について討議された。その結果、闘争委員会の戦術方針どおり宿日直勤務拒否闘争を実施する旨確認し、あわせて、闘争方法として宿日直勤務命令に対しては理由を明確に述べて他人の分まで交替して勤務に従事しないこととした。しかし、この段階においては西条営林署当局が右宿日直拒否に対し業務命令をもつて強制するとはとくに考えていなかつたので、業務命令に処する対策等については協議されなかつた。

以上の事実が認められ、前掲証拠中右認定に一部反する乙第四一、第四二号証、証人山中澄雄、同大畠稔浩の各証言、原告藤井忠男、同高山武房の供述はいずれも信用できない。

4  本件闘争計画に対する西条営林署の対策

証人藤井佐太郎、同二木通雄、同村上栄一の各証言を総合すると、次の事実を認めることができる。

前認定のように西条分会署内班が昭和三九年春闘期間中に宿日直勤務拒否闘争を実施することを察知した西条営林署当局は三月一二日午後四時ごろ藤井署長を始め村上管理官、二木庶務課長、板倉経理課長、大畑労務係長らが対策を協議した結果、(1)できるだけ説得に努める。(2)西条分会役員に警告を発する(3)勤務できないとする職員に対しては個人的な理由によるものか組合の指導によるものか確認する(4)説得に応じない職員に対しては文書による業務命令を発する旨を決めた。翌三月一三日藤井署長は原告藤井忠男、同河村睦幸ら同分会執行部役員五名(三宅執行委員長、原告高山武房は不出席)を署長室に呼び口頭で「組合は宿日直拒否を計画しているようであるが、そのようなことは違法な行為であるから速やかに中止されたい」旨申入れたが、右分会役員らはそのような闘争を計画していない旨答えて右説得を拒絶した。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

5  三月一四日、一五日の宿日直の状況

証人藤井佐太郎、同二木通雄、同板倉治人、同常藤和男、同松本正志(一部)の各証言、原告藤井忠男本人尋問の結果を総合すると次の事実を認めることができる。

三月一四日(土曜日)の日直割当者は松本正志であり、三月一五日(日曜日)の日直割当者は今川忠男、芦田宏の両名であつた。板倉経理課長は三月一三日午前九時過ごろ右松本正志らに対し、それぞれ所定の宿日直勤務命令簿を示し、それぞれ勤務命令を伝達したところ、松本は一三、一四日は広島へ出張し、それに明日から宿日直拒否に入るとの趣旨を述べて受命せずまた、今川、芦田はいずれも家事の都合で勤務に服せない旨申し述べて受命しなかつたので、当局はそれぞれ業務命令書を手交し勤務を命じたところ、前記三名の者はそれぞれ割当どおり所定の勤務に服した。三月一五日の宿直割当者は原告藤井忠男と常藤和男の両名であつた。二木庶務課長は三月一三日の午前九時過ごろそれぞれ所定の宿日直勤務命令簿を示し、勤務命令を伝達したところ、右両名はこれまでの受命時の態度とは異なり、常藤は、一五日は出張方々親類へ寄るなどと言訳して受命せず、また、原告藤井忠男もただ都合が悪いと言つて受命しないので、当局は右両名に対し業務命令により勤務を命じたが、両名は右命令を拒否したため結局三月一五日の宿直は二木庶務課長が勤務に従事した。

以上の事実が認められ、右認定に反する証人松本正志の証言の一部は信用できない。

6  向台忠行の宿直(三月一六日)拒否

証人二木通雄の証言により成立を認める乙第三九号証の二、証人藤井佐太郎、同二木通雄、同板倉治人、同三宅一之、同向台忠行の各証言、原告藤井忠男、同高山武房各本人尋問の結果を総合すると次の事実を認めることができる。

板倉経理課長は三月一六日の退庁時(午後四時四五分)間近い午後四時三〇分ごろ当日の宿直割当者向台忠行の席に行つて、同人に対し所定どおり宿日直勤務命令簿を提示し勤務命令を伝達したところ、向台は「一寸まつてくれ」と申し出た。そこで板倉課長は、さらに同日午後四時四〇分ごろ向台に宿直命令を伝えたところ、同人は都合が悪いといつて受命を拒否した。そこで、板倉経理課長は同人の上司である二木庶務課長の協力を得て向台を説得したが同人はこれに応じないので業務命令書を示して勤務に従事することを命じた際、同人の席近くに、同室中の原告河村睦幸、山中澄雄、原告藤井忠男、同高山武房らが、近寄り、向台をとり囲んで監視するような態勢になり、なおも説得を続ける二木庶務課長に対し、原告藤井忠男が「都合が悪いというのにやれというのはおかしいではないか」と言い、原告高山武房は沈黙している向台に対し「もう五時になつたから帰ろう」と言つて退庁するよう誘いかけた。そこで、二木庶務課長は原告らに対し「向台には宿直命令が出ているのでそのようなことを言つてくれるな、このように組合役員が多数集つてきて帰ろうと言うことは友達として言つているとは思われない、組合として言つているのではないか」と反問したのに対し、原告らはこもごも「したくない者に宿直をさせるのは人権じゆうりんではないか」などと発言した。このようないきさつを見聞した藤井署長は三宅委員長を自室に呼び「組合があのように向台に宿直を拒否するようそそのかしたりしては困るので、本件闘争は中止して欲しい」旨求めたところ、三宅委員長は「本件闘争は皆で決めたことなので、委員長一人で中止することはできない」旨答えて原告らに対する説得を拒否した。向台の宿直拒否は一般組合員として最初の拒否行為なので、これを重視した当局はその後向台に対し説得を重ねたが、同人はこれを拒否し、結局当日の宿直は管理者側の大畑労務係長が勤務した。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

7  本件闘争期間の延長のいきさつ

証人藤井佐太郎、同二木通雄、同板倉治人、同山中澄雄、同大畠稔浩の各証言、原告高山武房本人尋問の結果を総合すると次の事実を認めることができる。

闘争委員会(署内班闘争委員のみが出席)は三月一六日の宿直拒否をもつて本件闘争を終了すれば宿日直勤務を拒否した一部の者のみが処分されるおそれがあり、組合団結上問題があるので、本件闘争期間を全組合員に宿日直勤務割当が一巡するまで延長することとし昭和三九年三月一七日西条営林署会議室に署内班組合員を集め原告高山の司会により職場大会を開催し宿日直拒否期間を延長すべきことを諮つた。組合員の大方の意見は右提案にほぼ賛成したが、当局から業務命令が出た場合にこれを拒否するか、どうかの点で意見がまとまらなかつたので、職場大会は三月一九日まで連続して開催された。

すなわち、三月一七日の職場大会は意見の一致をみないまま散会したが、翌一八日は三〇才以下、三〇才以上、係長クラスと組合員を三階層に分け各階層別で討議を進め、その意見を闘争委員会が取りまとめ、それを職場大会に上程することとした。しかし、階層別組合員の討議においても、組合員の意見は一致せず、組合員全員の約半数を占める三〇才以下の組合員は業務命令を拒否し本件闘争を積極的に進めるべきであるとしたのに対し、三〇才以上の組合員は本件闘争を進めることには賛成であるが、業務命令が出された場合はこれに服すべきであるという意見であり、他方、係長クラスの組合員は懲戒処分されるおそれのある本件闘争を進めることに難色を示し、結局、組合員全体の意見は相互に調整する余地がなかつたので、この日の職場大会も結論を得ないまま散会した。翌一九日の職場大会は昼休みと夕方の二回にわたつて開かれ、とくに昼休みの職場大会では署内闘争委員会がこれまでの討議を基礎として今後の闘争方針について具体案を作成することとされた。署内闘争委員会は直ちに原告高山武房を主体に(1)宿日直勤務はしない方針である(2)自分の意思で宿日直を断われる人は完全に断わる。断われない人も本件闘争に協力する(3)最終的に宿日直勤務せざるを得ない場合でも業務命令に対する抵抗は闘争委員とともに行う、との三項目をとりまとめ、これを同日夕刻開かれた職場大会に付議した結果、組合員の賛同を得、ここに、本件闘争は組合員全員に勤務割当が一巡するまで継続されることとなつた。

なお、右職場大会が開催されていた三月一七日から三月一九日までの宿日直は三月一七日、一八日のそれについてはそれぞれ両日の勤務割当者であつた二木庶務課長、板倉経理課長が勤務に従事し、また、三月一九日の宿直については同日の勤務割当者三宅一之が風邪のためその交替申出が承認され管理者側が交替して勤務に従事したので、その間の宿日直は平常どおりに行われた。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

8  原告河村睦幸の宿直拒否

成立に争いのない甲第一六号証の一部に、証人板倉治人の証言を総合すると、板倉経理課長は三月二八日午前一〇時三〇分ごろ翌日(日曜日)の宿直勤務割当者原告河村睦幸に対し所定どおり宿日直勤務命令簿を示し、同日の宿直勤務命令を伝達したところ、原告河村睦幸はこれまで、なんら宿日直の順番について不服を申し立てたこともないのに、割当順番がおかしいとか、掲示板に同原告の名が掲示されていないなどと言つて、受命せず、業務命令も拒否したので、当日の宿直は村上管理官が勤務したことが認められ、右認定に反する前掲甲第一六号証の一部は措信できない。

9  本件闘争の終結と実態

証人藤井佐太郎、同二木通雄、同板倉治人、同中内正治、同安東功(一部)、同大畠稔浩(一部)、同玉木義則(一部)、同仏崎信行(一部)、原告藤井忠男同高山武房各本人尋問の結果、弁論の全趣旨を総合すると次の事実を認めることができる。

前認定のとおり本件闘争は三月一五日から同月一七日まで実施された後、さらに闘争期間が延長され、三月二〇日以降宿日直勤務割当が組合員全員に一巡する四月一〇日まで実施されたが本件闘争期間中宿日直を割当てられた組合員は延三八名(回数は宿直二四回、日直七回)で、その内勤務命令に服した分および六名の管理者が組合員の勤務交替申入れを承認して交替勤務した者を除くと宿日直勤務を拒否した者は延一三名(宿直一〇名、日直三名)、宿日直員がまつたく不在となるおそれのあつた回数は宿直六回、日直二回で、その内訳は別表のとおりであつたが、それも、管理者が勤務に交替従事したため同営林署の宿日直は現実にはなんらの支障もなかつた(なお三月中の土、日曜日祝日(ただし、三月一日および土曜日の日直を除く)の宿日直は山林火災多発時期ということを理由に平常時と異なり、二名とされていた。)

以上の事実が認められ、右認定に一部反する証人安東功、同大畠稔浩、同玉木義則、同仏崎信行の各証言の一部は信用できない。

なお、被告は、津川武雄は昭和三九年三月二〇日の日直を正当の理由なく拒否し、また、原告河村睦幸は同年三月三〇日の中内正治の宿直に関する二木庶務課長の説得行為を妨害したものであると主張するので検討する。(一)証人津川武雄の証言に、右証言によつて原本を正写したものと認める甲第一号証の三、証人村上栄一の証言を総合すると、津川武雄が勤務割当の三月二〇日の日直に従事しなかつたのは、同日同人が板倉経理課長から勤務命令を伝達された際、新婚間がなく家事の整理のため勤務に従事できない旨述べて勤務を断つたところ、同課長は持参してきた業務命令書や宿日直勤務命令簿をそのまま持帰つたりするなど津川の申出を了承するかのごとき態度をとつたところから、同人も交替が承認されたと信じたもので右の事情よりすればそう信ずるについて同人に責むべき事情があつたものとは認められないから、同人が同日の日直に従事しなかつたことをもつて、正当の理由がなかつたということはできず、右認定に反する甲第一号証の二、証人板倉治人の証言は措信し難い。(二)また、被告主張の原告河村睦幸の妨害行為についてこれをみるに、成立に争いのない甲第一六号証、証人二木通雄の証言により成立を認める乙第三九号証の二、証人二木通雄、同中内正治の各証言によると、原告河村は三月三〇日午後四時ごろ同日の宿直割当者中内正治に対し宿直勤務に就くよう説得していた二木庶務課長に対し、「病気だというのに無理に宿直させることはないだろう」とか「診断書を出す義務はないだろう」と一、二度言つて同課長の説得行為を非難したが、当時、中内と同課長は原告河村の席の正面近くでやりとりを交わしていたうえ、中内が真実病気であつたか否かはともかく、これまでは病気を理由として勤務を断る場合でも診断書などの提出は要求されたことがないのに、この時は同課長がそのような趣旨の発言をしたところから、原告河村はこれを聞き咎め抗議したもので、その発言もせいぜい一、二度なされたにすぎない点からすると、右原告河村の発言をもつて直ちに管理者の説得に対する妨害行為と評すべきではない。

つぎに、仏崎信行の日直拒否について津川武雄の場合と同様に交替が承認されたとみれるか否か検討するに、証人仏崎信行の証言によると、仏崎が交替を承認されたとする理由は管理官から業務命令書を手交されたがこれを返却しているし、それに、四月五日(日曜日)の日直予定日に営林署庁舎へ行つてみると二木庶務課長が出庁していたというのであるが、他方管理官は終始仏崎に対し勤務に就くよう説得しているうえ、業務命令書が返却された際も、困るといつてその受領を拒みさらに同人を説得しているし、また、二木庶務課長も仏崎に対し交替した等の言動をとくに示したわけでないことが明らかであるから、これらの事実に徴すれば、仏崎が交替を承認されたとする理由は客観性に乏しく正当なものとはいえない。

10  むすび

以上一ないし三項で認定した事実関係によれば西条営林署の宿日直勤務は所属長たる署長の業務上の命令に対する履行として実施され、昭和二八年以降一定範囲の職員による輪番制を採用して来たが、宿日直手当額が永年にわたり据置かれたこともあつて、次第にこれを好まない風潮が生じ、ひいては、宿日直割当者間での話合による交替も容易に認められる事態が恒常化し、全林野も昭和三八年春闘以降宿日直勤務は法的根拠を欠き強制さるべき性質のものではないとの見解のもとに、下部機関に対し、組合員の意識昂揚をはかつて宿日直勤務を廃止するよう日常の職場活動の充実強化を指導していたところ、昭和三九年の春闘期を迎え全林野、大阪地本においては、春闘体制確立のための大衆行動、順法闘争の具体的戦術の選択、実施を下部機関の討議による創意工夫に一任した結果原告ら西条分会執行部役員は前記のような宿日直制度の運用実態を背景として右全林野、大阪地本の闘争方針に則り春闘の体制確立のための具体的戦術の一環として、日常職場活動として展開すべく位置付けられてきた前記宿日直闘争を分会独自の闘争戦術として実施することを企画し、闘争委員会等で右計画の実施を採択したうえ職場大会等を通じて組合員に働きかけ組合員をして実施せしめ、かつ、原告藤井忠男、同河村睦幸は自らも割当てられた宿直勤務を拒否したものである。

原告らは、本件宿日直拒否闘争は、西条分会が組合として決定したものではなく、日常職場活動として展開すべきことを組合員各自が自主的に行つたものにすぎないと主張するが、前掲乙第三七号証、第四一号証、第四二号証、第四五号証によれば、本件拒否闘争当時の昭和三九年三月二一日付西条分会発行の「西条分会情報」には「春季闘争の戦術として、過日の闘争委員会で順法闘争の中に宿日直、超勤を完全にしないことを決定していた」(証人山中澄雄の証言によれば、右「過日」とは先に認定した第一回闘争委員会が開催された二月二三日であることが明らかである)旨の記事が掲載され、また、同日付で西条分会青婦部が発行した「西条こだま」も「組合では順法闘争を取入れ闘争委員会で宿日直拒否と超勤拒否をやることを決めた」旨報道し、さらに、本件直後の昭和三九年五月二四日開催された第一三回西条分会定期大会の議案書にも「大巾賃上げを勝ち取る戦術として各分会毎の創意工夫による順法闘争と調停切れの段階で半日ストを行う事を指令され、当分会はこれら闘いを進めるため(中略)闘争委員会を結成し順法闘争として、(中略)超勤、宿日直を行わない運動を展開」したと記載されていることからみても原告らの前記主張が理由のないことを裏付けるに十分である。

四  宿日直義務の法的根拠について

1  さきに、第二、一、二項で認定したとおり、国有林野事業ならびに西条営林署における職員の宿日直は、戦後その身分を規律する法制の変遷にかかわらず、所属長の勤務命令に基づく履行として実施されて来たものであるが、少くとも右職員は公労法が適用され、勤務時間、休日、休憩などの労働条件につき全面的に労基法で規律されるにいたつた後についてみれば、宿日直に従事すべき義務があるか否かは一般企業の労働者の場合と同様に、その勤務が労働契約の内容になつているか否かによつて定まるものであり、労働契約の内容はこれを規律する法令、労働協約、就業規則の定め、ないしは企業内の慣行をしんしやくしてこれを確定すべきものである。したがつて、前記所属長の勤務命令もまた右契約の範囲内で有効に発しうるものといわねばならない。そこで、以下、右の観点にたつて本件宿日直義務の法的根拠につき検討する。

2  すでに第二、一、二項で認定したとおり、西条営林署職員は少くとも昭和二八年以降輪番制による宿日直制度が採用されて以来、右制度のもとで異議なく宿日直勤務に従事しており、林野庁が昭和三〇年三月九日前示職員就業規則第三六条第一項において「職員は火災、盗難等の予防、急を要する文書、電信又は電話等の接受等のため必要がある場合には所属の長の定めるところにより通常の勤務の外に日直又は宿直を命ぜられることがある」旨規定し、西条営林署においては、右就業規則第三六条第二項の要請に基づき、昭和三一年一一月労基則第二三条所定の許可手続を履践し、以来同営林署職員は右就業規則に基づいて昭和三七、八年頃全林野大阪地本の指導によつて右宿日直制度の法的根拠につき疑義を抱くにいたるまでの間、永年にわたり異議なく勤務してきたことが明らかである。右事実関係によれば西条営林署における宿日直勤務については、所属職員において前記就業規則に基づき宿日直勤務に服すべきものとする点につき当然のこととして永年異議をとどめていなかつたものであるから、右宿日直制度はすでにそれが事実上の制度として確立していたものと解して妨げなく、したがつて、右職員が宿日直義務を負うことは企業内慣行として労使間の暗黙の合意により労働契約の内容となつていたものと認めるのが相当である。以上のとおりで、原告らは、同営林署長が右就業規則に基づいて発した宿日直命令に従う義務があるものといわなければならない。原告らは昭和三二年一〇月二四日林野庁と全林野との間で締結された月給制職員の俸給に関する協約第一条に基づいて定められた別冊の第六職務分類基準中普通職群欄掲記の職務内容に宿日直がその職務として掲記されていないことを根拠として宿日直は原告ら営林署職員の職務内容ではない旨主張するけれども、成立に争いのない乙第一六号証に、証人森田隆信の証言を総合すると、原告ら主張にかかる月給制職員の俸給に関する協約は公労委の勧告に基づいて国有林野事業の職務の特殊性に相応した給与体系を樹立する必要があるとの見地より締結された協約で、同協約別冊第6職務分類の基準中において各職務区分に応じてそれぞれ職種ごとの担当職務の種類、内容を記載したのは各職群別に俸給表を作成した関係上各職群ごとの分類を明確する意味で、職種別の通常の職務内容を明記したにすぎず、もとより、掲記された右職務は例示的なものであつて本来の職務に附随して行われる宿日直のごときは右協約の性質に照らし記載すべき職務に属さないことが認められるから、原告らの右主張は採用できない。

3  宿日直勤務に関する労基法上の取扱

原告らは、労基法第四一条第三号は監視または断続的労働を本務とする者に関する規定で、通常の本務外に宿日直勤務に従事する者に適用されるべき規定ではないなど右規定と労基則第二三条との関係について種々論及し、もつて、労基則第二三条は労基法上の根拠規定を欠く違憲、無効のものであり、また、同条による原告ら営林署職員の宿日直勤務は労基法第三二条、第三五条に違反する違法のものであると主張するので検討する。

労基則第二三条の規定内容、労基則上の位置関係などと労基法第四一条第三号の規定および同条を明示の根拠規定とする労基則第三四条の規定とを彼此照合すると、労基法第四一条第三号の規定と労基則第二三条の規定との間には原告ら指摘のように規定上種々不整合があることは否定し難い。しかし、労基法第四一条第三号は単に「監視又は断続的労働に従事する者で使用者が行政官庁の許可を受けた者」については労基法上の労働時間、休憩及び休日に関する規定を適用しない旨規定しているのみで、監視または断続的労働に従事する者が右労働を本務としているか、否かについては規定上明示していないことからすると、右規定をもつて、直ちに本務として監視または断続的労働に従事する者のみに関する規定であるとは断定しがたい。それに、右規定が監視または断続的労働に従事する者につき行政官庁の許可を要件として労働時間等に関する労基法上の規制を除外したのは、監視、断続的労働はその労働の特性から比較的労働密度が稀薄で、右労働を通常の労働と同等に評価することは労基法上の均衡を失するところから、行政官庁の判断のもとに労基法上の労働時間等に関する法的規制を除外したとしても労働力保護の措置に背馳することはないとの趣旨によるものと解される。したがつて、かかる観点よりすると、右規定によつて規制の対象となる監視、断続的労働とは本務がかかる態様の労働であるばかりでなく、他の本務に従事する者が附随的に監視、断続的労働に従事する場合も、その本務と附随的労働を一体的にみて労働密度の点から過度の労働にわたらず、労基法上の労働時間等に関する法的規制を除外しても労働力保護の点に欠けるところがないと判断される場合にはそれに包含されるものと解するのが相当であつて、労基則第二三条は宿日直が附随的断続的労働として一般的に労働密度も稀薄であり、その態様も軽易である点に着目し、これをその一態様として規定上明らかにしたものといえる。

以上のとおりとすれば、労基則第二三条は労基法第四一条第三号を根拠とする規定というべきであるから、労基則第二三条の規定をもつて労基法上の根拠を欠く違憲、無効の規定であるということはできない。また、労基則第二三条により所轄労基署長の許可があつたときは同条では労働時間に関する労基法第三二条の規定のみを適用除外としているが、前記趣旨よりして宿日直勤務者は宿日直に従事しているかぎりで同法第三四条の休暇に関する規定および同法第三五条の休日に関する規定もそれぞれ適用を除外されるものと解するのが相当である。もつとも、労基則第二三条が挙示する様式一〇号の許可申請書に記載すべき事項はすべて宿日直に関する事項のみであつて、本務に関する労働時間、勤務の態様等についてはなんらの記載を要求していないから、所轄労基署長が労基則第二三条の許可をするにあたつて本務と附随的労働たる宿日直を一体的にみて許可基準を規制することができない点で問題なしとしないが、こと西条営林署の宿日直に関する限り、その勤務内容は断続的労働の中でも比較的軽易なものであり、その全体的運用において宿直の翌日は半休とされる休養タイムや準備時間が設置されるなど労働力保護上配慮されていたことはすでに認定したとおりであるから、同営林署の宿日直は労基法上根拠を欠くものということはできない。

4  原告らは、本務外に行われる宿日直については労基則第二三条による労基署長の許可のほかに労基法第三六条による時間外協定の締結を必要とする旨主張する。しかし、宿日直勤務は一般的に労働密度も稀薄で勤務の内容も軽易であることなど、その労働の特性を考えると、それは通常の勤務時間の延長である超過労働と同一視し得るものではないし、それに、労基法はとくに右宿日直勤務の特性に着目し、労基則第二三条による所轄労基署長の許可に拠らしめることによつて労働力の保護を図つているその趣旨、目的にかんがみれば、労基則第二三条による所轄署長の許可を受けたうえに、さらに労基法第三六条による時間外労働協定を締結しなければならないとする理由はないものといわなければならないから原告らの主張は採用できない。さらに、原告らは西条営林署が制定した就業規則の性質を有する前記宿日直規程につき労基法第八九条、第九〇条所定の手続を経ていないから無効であると主張するが、前認定のとおり右規程は前記宿日直勤務に関する就業規則の規定の具体的運用のためにその服務細則を定めたものにすぎないから、右規程につきさらに原告ら主張の手続を経ることを必要とするものとは解されず、右主張は理由がない。

5  さらに原告らは、西条営林署においては宿日直勤務の必要性がなかつたから、その必要がないのに命じた本件各宿日直命令は職員就業規則第三六条に違反するものであると主張する。前記職員就業規則第三六条第一項の規定より明らかなとおり、宿日直は本務終了後に、庁舎等における火災、盗難等の予防、急を要する文書、電信または電話等の接受等をその業務の目的とするものであるところ、成立に争いのない乙第一号証、第四四、第四八号証の各一、ならびに各溝手昇作成部分については成立に争いがなく、その余の部分については弁論の全趣旨により成立を認める乙第四四号証の三および第四八号証の二弁論の全趣旨によつて成立を認める乙第四四号証の二、四、証人森田隆信、同藤井佐太郎、同板倉治人の各証言を総合すると、西条営林署は林野庁所属の地方支分部局として国有林野事業に関する業務を所掌し、管内一七カ町村にわたつて国有林野を管理保有しているほか国有財産たる庁舎その他諸施設を管理し、また、重要な文書、帳簿、官印、極印等を保管し、そして、時には勤務時間外に郵便物、電信、電話等を接受する必要があることが認められ、右認定に反する証人溝手昇の証言は信用できない。以上のとおりとすれば、夜間、休日等の庁舎等における火災盗難を予防し、その管理、保全に万全を期し、かつまた、郵便物等を接受するため、西条営林署勤務の職員をして宿日直をさせる必要性があつたものといえるから、これに反する原告らの主張は採用し難い。

6  次に、西条営林署における宿日直は労基則第二三条の許可条件に反している旨の原告らの主張について検討するに、成立に争いのない甲第一六号証、乙第四号証に、証人藤井佐太郎、同板倉治人の各証言を総合すると、西条営林署では労基則第二三条による広島労基署長の許可においては、一回の宿日直員数は各一名、年末年始は二名とされていたが、昭和三九年三月の土、日曜日、祝日(ただし、三月一日および土曜日の日直を除く)については山林火災の多発時期ということを理由に労基署長の許可なしに一回の宿日直員数を二名として割当てていた。しかし、西条営林署の宿日直は総人員三九名が宿直については一人当り一カ月一回あて、日直については一人当り四カ月一回あての割合でそれぞれ勤務することで許可されていたことが認められるので、右条件に反しない限り特別な場合は一回の宿日直員数を増員できるものと解する余地があるし、さらに、前掲証言に成立に争いのない乙第二〇号証によると、同営林署では昭和三八年以前の年末年始の宿日直はそれぞれ二名として割当てていたが、昭和三八年以降の年始年末の宿日直はこれを廃止したことが認められるから、かような点を考慮すると、西条営林署が昭和三九年三月の土、日曜日、祝日の宿日直員数につき前記のとおり各一名増員したことをもつて、労基則第二三条の許可条件に反し、原告ら職員の労働力保護に背馳するものというべきではないから、この点の原告らの主張も失当である。

7  原告らは西条営林署当局が原告ら職員に対してなした本件宿日直命令は命令権の濫用として無効である旨主張するけれども、本件に顕われた全証拠を検討しても右主張を肯認するに足りない。

五  公労法第一七条第一項は憲法第二八条に違反するか

1  憲法第二八条は、憲法第二五条に定めるいわゆる生存権の保障を基本理念として経済上劣位に立つ勤労者に対して実質的な自由と平等とを確保するためいわゆる労働基本権を保障しているが、労働基本権保障のかような趣旨にそくして考えれば、実定法規によつて労働基本権の制限を定めている場合にも、労働基本権保障の根本精神にそくして、その制限の意味を考察し適切妥当な法解釈をしなければならない。

そして、この労働基本権は、たんに私企業の労働者だけについて保障されるばかりでなく、公共企業体等の職員も憲法第二八条にいう勤労者として原則として、その保障を受けることはいうまでもない。しかしながら労働基本権もなんらの制約も許されない絶対的なものではなく、国民生活全体の利益の保障と調和という見地からの制約を当然の内在的制約として内包するものである。ところで、具体的にどのような制約が許されるかについては諸般の条件、ことに次の諸点を考慮に入れ慎重に決定しなければならない。すなわち<1>労働基本権が勤労者の生存権に直結し、それを保障するための重要な手段である点を考慮すれば、その制限は合理性の認められる必要最少限度のものにとどめられるべきこと<2>労働基本権の制限は、勤労者の提供する職務または業務の停廃が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるものについて、これを避けるために必要やむを得ない場合について考慮されるべきこと<3>労働基本権の制限違反に伴う効果、すなわち、違反者に対して課せられる不利益については必要な限度をこえないように十分な配慮がなされなければならないこと<4>職務または業務の性質上からして、労働基本権を制限することがやむを得ない場合には、これに見合う代償措置が講ぜられなければならないことを基準として考慮すべきものと考える。ところで、公労法の適用事業である三公社五現業の業務もしくは職員の職務はその性質上一般的に社会公共性を有することは否定できないが、公共性の程度は各業務の性質、態様に対応して必ずしも一様でなく、強弱様々で、なかにはきわめて独占性、公共性の高度のものもあれば、その程度に至らないものもないとはいえないし、それに、争議行為といつても、その種類、態様、規模は様々で、争議行為による国民生活に与える影響の程度もそれぞれ異なるものである。したがつて、公労法第一七条第一項がかような公共企業体等の業務もしくは職員の職務の公共性の強弱や争議行為による国民生活への影響の程度如何を考慮せず、公共企業体等の職員らの争議行為を一律かつ全面的に禁止する趣旨とすれば憲法第二八条違反の疑を免れない。しかしながら法律の規定は可能な限り憲法の精神にそくし、これと調和し得るよう合理的に解釈すべきものであるから公労法第一七条第一項の規定を労働基本権を保障した憲法第二八条の規定の趣旨と調和し得るように解釈するならば、右公労法第一七条第一項の趣旨は公共企業体等の業務もしくは職員の職務の公共性と争議行為の種類、態様、規模により公共性の強い業務の停廃をきたし、ひいては国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがある争議行為に限り、これを禁止したものと解するのが相当である。

右のごとく公労法第一七条第一項によつて禁止された争議行為を限定的に解釈するならば、右規定は憲法第二八条の趣旨に反するものと直ちに断定しえないから、右規定をもつて違憲無効のものとする原告らの主張は採用できない。

2  次に、国有林野事業に従事する職員および組合の争議行為が公労法第一七条第一項により禁止されているかを考察する。

(一) 国有林野事業の業務とその公共性

成立に争いのない甲第八ないし第一〇号証、乙第五九、第五六号証に証人田村武(一部)、同山下鉄雄(一部)、同丸田和夫の各証言、弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができ、左記認定に反する証人田村武、同山下鉄雄の各証言の一部はいずれも信用できない。

(1) わが国は林野面積が国土面積全体の六八パーセントを占め、また、森林蓄積量は約一九億立方メートルに達する世界でも有数の森林国といえるところ国有林野は右林野面積の約三一パーセント、国土総面積の約二一パーセントを占め、かつ、総森林蓄積量中約四六パーセントを保有している。そして民有林野(地方公共団体等が保有する公有林野を含む)と比較した場合、国有林野の林野面積こそ民有林野の約二分の一足らずであるが、森林蓄積量は前述のとおりわが国森林資源の四六パーセントと高い蓄積量を有し、また、民有林野は多数の所有者に保有され、しかもそれが比較的里山に近い地域に所在しているのに反し、国有林野の過半はせき梁山脈沿いの比較的奥地の主要河川の上流地帯に位置しているため土砂流出、崩壊防止など国土保全、水資源かん養上重要な役割を果たしている点に特色を有している。国有林野事業はかかる特色を有する国有林野を一体として統一的かつ計画的に管理経営する国有の企業であつて民有林野事業がもつぱら利益追求を目的としているのに対し、国土の保全、水源のかん養、国民の保健および休養、あるいは動植物その他自然の保護など森林の保有するいわゆる公益的機能を確保しながら、森林資源の培養および森林生産力の向上に努めることにより、国民経済にとつて重要な林産物を持続的に供給して林産物の需給および価格の安定に貢献し、かつ、地元農山村および木材関連産業等の振興に努め、あわせて一般林業振興等に寄与することを事業の目的としている。そして国有林野事業はかかる経営目的にそつて森林のもつ右公益的機能の一層の充実、強化を図るべく次のような諸事業を行つている。すなわち、治山事業として治山事業五カ年計画により復旧治山の計画的推進、予防治山の充実等の積極的推進、水需要の増大に対処するとともに林地の荒廃による災害を防止するための保安林整備計画による各種保安林の整備充実、国土保全上国の一括管理を相当とする民有林の積極的買収、国有林野内に国民の保健、休養の場として自然休養林、野営場等のレクリエーシヨン施設を設置して自然環境を国民生活に提供し、あるいはまた、野生の動植物の保護に必要な森林を保護林とするなどし、さらに自然公園、史蹟名勝、天然記念物、野生鳥獣の保護の指定にともなう施業措置を講じている。そのほか国有林野所在地域の産業の振興と地域住民の福祉の向上に資するため国有林野の貸付、売払いのほかに共用林野、部分林制度によつて国有林野の積極的かつ適切な活用を進め、これら施業を通じて農林業構造の整備改善を行なう等の事業を営んでいる。また、木材等国有林野林産物を国民生活に持続的、計画的に供給するため全国森林計画に則つて樹立される経営基本計画に基づいて造林、育苗などの各種森林資源の増大育成の施業、国有林材供給、伐採、販売などの事業を行ない国民経済に寄与している。

(2) もとより、国土保全、水源のかん養等森林の保有する公益的機能はひとり国有林野のみが保有する固有の機能ではなく、民有林野を含めた森林全体が保有する機能であり、それにまた、造林、育苗の事業はもとより、林産物の国内市場への供給等の経済的事業は国有林野事業のみの独占ではなく、同種事業は民間においても広く実施され、また近時、国有林野事業による木材生産と国内市場への木材供給量は、木材需要量の増大に応じて相対的にその比重が低下し、外材の占める比重が高くなつていることは否定し得ないところである。

(3) しかしながら、国有林野事業は全体としてはもつぱら利潤追及の目的のみで右経済的事業を行つているものではなく、統一的、計画的な施業によつて持続的に国内市場へ相当量の木材を供給し、とくに優良材の秋田杉や木曽檜等の特産林産物は国有林野事業がほぼこれを独占して全国的にこれを供給し、さらに国有林野事業は非常災害時に備えて全国で約五万トンの木材を備蓄し、木材価格の高騰時に大量の貯蔵木材を市場へ放出し、木材の需給および価格の調整に寄与しているのであつて、かかる経済的機能は国有林野事業が公共の福祉の維持、増進に寄与することを目的としていることから、なし得るところであり、民有林野事業にこれを期待できないところである。とくにわが国土を各種の火災や荒廃から守り、水資源をかん養する治山事業は建設省所管の治水事業と緊密な連携のもとに行つておりその運営は深く国民生活に関連し、その安全を左右する重要な事業であつて右事業は単に森林の保有する公益的機能を維持、補完するにとどまらず、右機能を積極的かつ高度に発揮させることによつてより一層十分な成果を挙げることができるのである。国もかかる見地から、国、民有林を通じ治山行政を治水行政と並んで国政の根幹とし治山五カ年計画等を樹立してその施策を統一的、計画的に推進しているが、国有林野事業はかかる国政の一翼を荷ない、かつ、右国政と相互に連携を保ちつつ治山事業が本質的に公共事業であるとの前提に立つて右事業を効率的、計画的に進める一方、保安林の整備、強化に努め、国土保全、水源かん養に万全を期しているのであつて国有林野事業が右治山事業を通じて国民生活全体の利益のために果たしている使命と役割は大きく、民有林野事業のとうてい及び得ないところである。そして、国有林野事業はかかる公共性の強い治山事業とともにこれまで検討してきたような各種事業を有機的一体のものとし、公共の福祉を増進することを目的として運営しているのであつて、右事業経営の成否は国民生活全体の利益と関連しているものといえるから、右事業は総体的にみて公共性の強い事業である。

(4) 原告らは、治山事業が公共性の強い事業であるとしても、その事業の大部分は国有林野事業の職員とは関係のない下請業者の手によつて実施されているのであるから、国有林野事業の職員らの争議行為を禁止する理由とはならない旨主張するが、治山事業の現場工事の一部が下請業者の手により実施されているとしても治山事業の本質が公共性の強い事業であることには少しも変りがないし、それに右事業に関する調査、計画、設計、監督、検査など基幹業務のすべては国有林野事業に従事する職員が担当しているのであるからこれら部門の停廃は治山工事の施行を阻害し、ひいては治山事業の運営に支障をもたらすものであり、原告らの主張は採用することはできない。

(5) 以上のとおりとすれば、全体として国有林野事業は公共性の強い事業として国民生活全体の利益と関連するものと認むべきものである。

もつとも国有林野事業は成育に長期間を有する森林を事業対象とする特質を有し、ある程度長期的な展望に立つて事業を行つているので業務の一時的停廃による障害は直ちに顕著な形となつて外部に発現するものとは一般的に言えないけれども、反面、一たび自然が破壊されるとその回復には長時間を要し、時には回復が不可能となる場合すらあるうえ、前掲証人山下鉄雄(一部)、同丸田武夫の各証言によると、国有林野事業のうち、造林事業や育苗事業にしても、いずれも季節的な制約に強く左右される事業であつて、事業遂行上の最適期に業務の停廃をきたすと右事業の運営についてはもとより、ひいてはその目的とする森林の公益的機能の維持増進に影響を与える可能性があるし、いわんや、公共性のきわめて強い治山事業は国民生活の安全を強く左右するものであつてその業務の停廃はたとえそれが一時的なものであるとしても、国民生活に対する影響を無視できない。

右のとおりとすれば、公労法第一七条第一項は国有林野事業の職員および組合の争議行為についても、その業務の強い公共性にかんがみ争議行為の規模、態様如何によつては国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な支障を与えるおそれがあるから、これを禁止したものと解すべきである。

六  本件宿日直拒否闘争は公労法第一七条第一項の禁止に違反するか。

1  本件闘争の実態と国有林野事業に対する影響

最初に被告は、本件宿日直拒否闘争は国民生活に重大な障害をもたらすおそれのある公労協全体による統一半日ストライキの体制作りの一環としてなされた以上、争議行為の一体性から当然に右統一半日ストライキと不可分なものとして違法な争議行為であると主張する。本件闘争は大巾賃上げ、差別・アンバラ撤廃、林政民主化を三本の柱とする全林野が公労協の一員として参画した昭和三九年春闘の体制作りの一環として実施されたものであり、そして、右春闘計画は闘争の山場に全林野を含む公労協全体による統一半日ストライキ実施という強力なものであつたことはすでに認定したとおりである。しかしながら、右統一半日ストライキは公労委による仲裁認定が出た段階で自主的に中止されたことは証人弘中保之の証言から明らかであるばかりでなく、本件処分は全林野が企画した春闘方針に則つて原告ら西条分会執行部役員が企画し、組合員に実施せしめた本件宿日直拒否闘争をとらえて、国公法上の懲戒責任を問擬するものであることが明白であるから、本件闘争によつて国有林野事業の停廃を来たしたか否かは本件闘争自体に限局して判断すべきものでこれと統一半日ストライキと一体のものとして評価すべきものではない。

そこで、本件闘争の種類、態様、規模にてらして、それが国有林野事業の停廃を来たし、国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な支障害をもたらすおそれがあるか否かを考察する。そして、右考察に当つては具体的に実施された争議行為の種類、規模、態様についてはもとより、これにより阻害されるおそれのある業務の種類、性質、内容、さらには国民生活に与える影響等について具体的に検討したうえ、当該争議行為を規制することが国民生活全体の利益を確保するために必要かつ避けられないものか、どうかの観点より判断されるべきである。

(一) 本件闘争は原告ら職員による宿日直労務不提供という単純不作為の争議行為として実施されたもので、いわゆる同盟罷業に属するうえ争議行為も付随的労働たる宿日直のみを対象とし、しかも闘争の態様としても組合員が事由の如何を問わず一律全面的に宿日直を拒否するというものではなく、一応宿日直勤務命令を拒否して、右勤務に従事しない方針であるとの原則に立ちながらも、各組合員の立場に応じた自主性を尊重し、当局から宿日直を命ぜられた場合でも各個人において拒否できる者は理由を明確に述べて拒否するが、拒否できない者も闘争委員と共に抵抗するというかなり弾力的なものであつた。現に、組合員の中には当局の業務命令に従つて所定の勤務に従事した者もごく僅かではあるが存在したし、また、中には当局から交替が承認された者もかなりあつて、本件闘争は昭和三九年三月一五日から同年四月一〇日までの二七日間という比較的長期間にわたつて実施されたにもかかわらず、別表のとおり、終局的に業務命令を拒否し、宿日直勤務に従事しなかつた者は宿直員延一〇名、日直員延三名であり、しかも、その中には土、日曜日の宿日直で割当人員二名のうち一名のみが拒否したものもあつて、本件闘争により実質的に宿日直員が不在となるおそれのあつた宿日直は宿直六日間、日直二日間にすぎなかつたし、それも、管理者側で勤務したため同営林署の宿日直業務は本件闘争中といえども平常どおり処理されたのである。

なお、西条営林署当局は三月中の土、日曜日、祝日の宿日直につき山林火災多発時期という理由で宿日直員をそれぞれ二名に増員したが、その理由が合理性に乏しい点は後記(三)で説示するとおりである。

(二) 本務外の宿日直は職員が通常の勤務終了後である夜間、休日に主として本務とは直接の関連性のうすい庁舎等施設の保全、郵便物、電信、電話等の接受、災害発生時における連絡通報にあたるものである。

西条営林署は林野庁の地方支分部局として管内に国有林野を保有するという事業上の特色を有するものであるが、成立に争いのない乙第五号証、証人佐々木寅雄、同板倉治人の各証言、弁論の全趣旨より明らかなとおり、同営林署の宿日直員は国有林野の保守、監守に従事するわけではなく、また、国有林野に災害が発生した場合も、宿日直員は直接、防災上の諸活動に従事することを職務とせず、電話による災害発生の連絡に携わるにすぎないのである。すなわち、国有林に火災が発生した場合に例をとるならば、宿日直員は災害発生の通報を担当する担当区事務所等勤務の職員から災害発生の電話通報を受けるとこれを署長官舎へ電話連絡し他方、付近の職員の動員に従事するもので、右職務は災害発生の電話連絡にすぎない点で、庁舎等、構内施設に災害が発生した場合の職務と大差がなく、西条営林署が管内に国有林野を保有しているとの点はなんら同営林署の宿日直を特殊な勤務形態とするものではない。

西条営林署の宿日直は既に検討したように、本務外の宿日直の一般的特性である軽易で、労働密度も稀薄であり、ほとんど労働する必要のない手待時間の多い労働たる性格を保有する点で一般の宿日直と変りがなかつた。

もとより、宿日直員は手待時間中といえども災害等緊急事態が発生した場合に対処し、何時でも臨機の措置をとり得る態勢にあることが要請され、また、宿日直員が手待時間として宿直室にただ在室するだけである程度の防災上の機能と役割を果たしていることも否定できない。それに、災害が発生した場合の通報、連絡も決して軽視し得ない職務であることはいうまでもないが、宿直室に在室することによつて果される防災上の機能や、災害発生の通報、連絡も宿日直員でなければ果し得ない固有のものではなく、適宜他の方法によつて容易に補い得るものである。とくに、西条営林署の場合は証人二木通雄の証言により成立を認める乙第三九号証の一、証人藤井佐太郎、同二木通雄の各証言、弁論の全趣旨から明らかなように、庁舎は交通量の激しい国道に面しているが、周囲の民家とは門塀によつて区画されているうえ、構内には庁舎に近接して署長、事業課長、庶務課長、販売係長らが家族と共に居住する四戸の官舎があるほかに独身職員が入居している寮もあつて構内には昼夜を問わずかなり多数の営林署関係者が常住しているのであつて、かような環境条件は同営林署の宿日直の機能と役割を考えるにあたつてとうてい看過し得ないところというべきである。現に、同営林署の昭和三八年以前の年末年始の宿日直は従前は一名あて増員され二名で実施されていたが、同年以降は林野庁の指導もあつて、前記のような営林署構内における職員の居住状況など環境条件を勘案し、庁舎等に対する施錠の整備、構内居住管理者による見廻り、郵便受箱の設置などの措置を講じて署長の責任で全廃されたけれども、これによつて同営林署の業務になんら支障をきたした事実はなかつたことは証人藤井佐太郎の証言により成立を認める乙第二〇号証、証人藤井佐太郎、同板倉治人、同溝手昇の各証言より明白であるばかりでなく、さらにまた、成立に争いのない乙第二三ないし第二五号証、証人森田隆信、同佐々木寅雄、同溝手昇の各証言によると、昭和四〇年四月以降の西条営林署の宿日直は林野庁と全林野間の労働協約により一般職員の輪番制から専任者一名による専任制に移行したが、専任者が休暇や病気で宿日直に就けないときも一般職員がこれに替つて勤務に従事した例は皆無であり、それに、同営林署では専任者が一カ月間余の長期にわたつて病気欠勤し、宿日直員が不在となつた際も、同営林署の業務は格別支障もなく運営されてきたことが明らかである。

(三) 被告は、国有林野事業の宿日直は一般官庁のそれと異なる特殊な勤務形態であり、責任度も高度であつて、このことは全林野も認めてきたところであると主張し、成立に争いのない乙第二七、第二八号証は右主張に一部そうものであるが、しかし、西条営林署の職員による宿日直が特殊な勤務形態をとるものでないことは既述したとおりであり、それに全林野が昭和三七年一一月ごろから昭和三八年三月ごろにかけての林野庁に対する宿日直手当の増額交渉で、右主張のように国有林野事業の宿日直勤務の特殊性と高度の責任性をことさら強調し、本来、宿日直員の職務と解することのできない林産物の保守、物資購入、地元民や従業員に対する連絡、山火事予防強化週間における終夜待機などの事項を列挙(乙第二八号証)したのは営林署職員の宿日直手当が昭和二八年以来一度も改訂されず職員の不満も昂じていたところから、その要求を貫徹するため、ことさら異例と目される宿日直事例を挙示して当局に対する説得手段としたものと解されることは証人佐々木寅雄の証言より窺知できるところであるから、これに反する被告の主張は採用できない。また、西条営林署当局が三月中の土、日曜日、祝日の宿日直員を増員した点も、同営林署管内では毎年三月は山林火災がもつとも発生し易い時期に属することは証人二木通雄の証言により成立を認める乙第四〇号証、証人藤井佐太郎の証言より明らかであるが、山林火災は三月中の土、日曜日、祝日に限定して発生するものでもないうえ、同営林署当局はこれまでかような増員措置を講じたことは一度もなく、それに、三月中の宿日直割当表はすでに一月中に作成されたが、その段階ではなんら増員は考慮されていなかつたのに、二月二一日になつてこれを変更して二名に増員したことが証人板倉治人の証言より明らかであるから、かような一連の事実に徴するならば、西条営林署当局が山林火災の発生に対処するという理由で宿日直員を増員したとする点は直ちに首肯し難いところである。

以上要するに、西条営林署の職員による宿日直はその職務の内容やその実態からみて国有林野事業の運営に直結した不可欠なものとはいえない。

(四) 本件闘争は先きに認定したような西条営林署の宿日直制度とその運用を背景として同営林署本署に勤務する原告ら組合員によつて企画、実施されたものであるが、本件闘争によつて同営林署の経理課長など管理者六名が別表記載のとおり、組合員に割当てられた宿日直を繰り返し交替するなどその処理に忙殺され、また、闘争の結果も宿日直員が不在となるおそれのあつた宿日直が宿直六日間、日直二日間にわたるなど同営林署の宿日直業務が混乱したことは否定できないが、本件闘争によつて原告ら組合員や管理者の本務たる職務の遂行に格別の支障をきたした事実を認めるに足りる資料はなく宿日直員が不在となるおそれのあつた宿日直についても現実にはすべて管理者側で勤務したところから同営林署の宿日直業務は本件闘争中といえども平常どおり処理されたことは既述したとおりであるから、本件闘争によつてもたらされた国有林野事業運営上の現実的な支障は極めて軽微なものであつたといわねばならない。

もつとも、右のような結果は管理者が宿日直業務の停廃を避けるため率先して勤務に従事したことによるものであるが、かりに、そのような宿日直の代替処理がなされなかつた場合の宿日直員の職務とされている防災上の措置に対する支障の点をみても先に認定したように西条営林署宿日直員は単に庁舎内外の異常の有無の確認と災害が発生した場合の通報、連絡に携わるにすぎなかつたし、西条営林署構内には既述のとおり署長を始めとしてかなり多数の営林署関係者が昼夜を問わず存在しているうえ、署長官舎は電話もあつて災害発生の通報、連絡には支障がなかつた事情からすると、本件宿日直拒否が災害の発生、拡大に直結し、あるいは、その通報、連絡に支障をもたらすおそれがあつたとは直ちに断じ難い。

(五) 以上考察したところによれば本件闘争は結局国有林野事業自体の停廃を招来し、ひいては国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれはなかつたものというべきものであるから、本件闘争は前記説示にてらし公労法第一七条第一項で禁止された争議行為に該当しないものといわなければならない。なお、第二、三6で認定した向台忠行の宿直拒否に対する原告らの所為は、右向台の宿直拒否が公労法第一七条第一項前段の禁止に該らないこと前認定のとおりであるから、後段のそそのかし、あおりに該当しないことは明らかである。

なお、本件闘争は既述のとおり、西条営林署本署に勤務する原告ら職員が昭和三九年春闘時に全林野が企画した春闘体制確立に資する目的をもつて同営林署の宿日直勤務に従事することを拒否したことを内容とするものであるが、全林野が春闘方針とした大巾賃上げ、差別・アンバラ撤廃要求はいずれも国有林野事業に従事する職員の経済的地位の向上を目的としたものであり、右要求貫徹のための具体的争議手段としてとられた本件闘争は、宿日直をもつて余分な労働であり法的に義務付けられたものではないとの見解に基づき宿日直廃止運動の一環として営林署職員の労働条件改善に資するため実施されたものであるから、争議行為の目的においてなんらの不法性はなく、また前認定のような本件闘争の手段、態様にてらしても正当なものである。

七  本件懲戒処分の効力について

以上判断したところによれば、原告ら西条分会執行部役員が企画実施した本件闘争は公労法第一七条第一項が禁止する争議行為に該当せず、また、それは正当な争議行為であることは前認定により明らかであるから、原告らの所為はいずれも国公法上の懲戒事由に該当するいわれはなく、本件処分はその前提を欠く違法のものであり取消しを免れない。

八  むすび

以上のとおりとすれば、原告らの本訴請求はその余の点について判断するまでもなく、理由があるから正当として認容すべきものである。

よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤平伍 神田正夫 三島いく夫)

(別表省略)

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